改訂新版 世界大百科事典 「小町草紙」の意味・わかりやすい解説
小町草紙 (こまちのそうし)
御伽草子。室町時代の成立。近世になって渋川版御伽草子に収められ,普及した。天性の美貌と和歌の才で浮名を流した小野小町が,年老いて見るも無残な姿となり,都近くの草庵に雨露をしのいでいた。里へ物乞いに出ると,人々は〈古の小町がなれる姿を見よや〉とあざける。彼女は東国から奥州へと流浪の旅を重ね,玉造の小野にたどりつき,草原の中で死ぬ。在原業平が歌枕の跡を訪ねて玉造の小野まで来ると,吹く風とともに,〈暮れごとに秋風吹けば朝な朝な〉という歌の上の句が聞こえてくる。業平が下の句を〈をのれとは言はじ薄(すすき)の一むら〉と付けると,美しい女房が忽然と現れる。これは小町の幽霊であろうと思い,草むらをかき分けてみると,白骨と一むらの薄が生えていた。小町は如意輪観音の化身,業平は十一面観音の化身であるから,〈南無大慈観音菩薩と回向(えこう)あるべし〉という結語で物語は終わる。中世の小町伝説を踏まえた作品の一つである。
執筆者:佐竹 昭広
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報