日本大百科全書(ニッポニカ) 「屈折需要曲線」の意味・わかりやすい解説
屈折需要曲線
くっせつじゅようきょくせん
kinked demand curve
寡占価格の硬直性を説明するためにP・M・スウィージーにより提案された屈折点をもつ需要曲線。寡占企業は、つねにライバル企業がどのような態度に出るかを推測しながら、自己の利潤を最大にするように意思決定をする。いま、ある寡占企業の商品の現行価格をPとする。その企業がPより価格を引き上げると、ライバル企業はその値上げには追随しないであろうから顧客を失うことになり、その企業が想定する需要曲線はP以上の価格については傾きが緩やかとなる(つまり需要曲線は弾力的である)。逆に、現行価格Pよりの値下げに対しては、ライバル企業も報復のために値下げに追随するであろうから、その企業の販売量は思ったほどには増えない。したがって、需要曲線は非弾力的であり、その傾きは急激になる。これらのことより、現行価格Pにおいて需要曲線は屈折点Kをもつことになる。限界収入曲線MRは、この屈折点に対応する需要量において不連続となる。もし限界費用曲線MCが、この不連続な部分LMを通るならば、産出量はQに、価格はPに決定される。このときMCがMC′へとシフトしても、利潤最大化価格と生産量になんら影響を与えない。このようにして、寡占価格は硬直的であることが説明される。スウィージーの理論では、屈折点Kは歴史的に所与である出発点とされているが、一般には現に販売されている量と現行価格の組合せを示すものであり、AKとKBの屈折需要曲線は、企業のこれまでの販売経験から想定される主観的需要曲線である。この主観的需要曲線を屈折点をもった曲線と考えれば、スウィージーの屈折需要曲線の理論は、寡占価格の説明のみに限らず、賃金の下方硬直性や不況期の価格硬直性の説明にも有用であることが最近示唆されている。
[内島敏之]
『根岸隆著『ケインズ経済学のミクロ理論』(1980・日本経済新聞社)』