改訂新版 世界大百科事典 「急就篇」の意味・わかりやすい解説
急就篇 (きゅうしゅうへん)
書物の名。中国,日本ともにこの名の書物があるが,日本のものは中国のものの名を借りたもの。
(1)Jí jiù piān 中国,漢の史游の著。字書の一種で,児童など初学入門のものに文字ならびに当時〈章草〉と呼ばれた草書体を教えるためのものであったと考えられる。《急就章》とも呼ばれることがあるが,その場合〈章〉はこの章草の意味である。〈急就の奇觚 衆と異なり〉に始まり,姓氏,衣服,飲食,器物,音楽,身体等に類別された文字が,多くは一応の意味上のつながりをもつ7字句,あるいは3字句,4字句の形をとって並べられている。書名はその初めの2字をとってそう呼ばれるのである。いま普通のテキストは34章に分かれ,総字数2144字になっているが,終りの部分には漢以後の人の追加と考えられる部分がある。原形そのままではあるまい。日本では弘法大師空海の書写したものがあることでも知られている。
(2)宮島大八編の中国語会話教科書。1904年東京の善隣書院から発行され,はじめ《官話急就篇》と名づけられた。〈官話〉は〈官〉で用いるべきことばの意味で,〈共通語〉というよりおそらく〈標準語〉という気持のほうが強い。この場合の〈標準語〉は〈北京官話〉のことで,特に当時の上流社会を形づくるいわゆる満州旗人のことばという色彩が強い。33年の改訂で,名が単に《急就篇》となってもこの傾向は基本的に変わらなかった。東亜同文書院の教科書《華語萃編》などと共通する,あいさつことば,いわゆる〈応酬話〉のきわめて多い会話集であった。第2次大戦後もしばらくは出版された。
執筆者:尾崎 雄二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報