内科学 第10版 「急性小脳炎」の解説
急性小脳炎(急性散在性脳脊髄炎)
概念
感染徴候に引き続き,あるいは特発性に突然小脳失調をきたす疾患で,急性小脳失調症ともいわれる.小児期に多いが成人にもみられる.成人では傍腫瘍性小脳変性症との鑑別が重要である.
病因・疫学
感染やワクチン接種に伴う自己免疫学的機序,直接的なウイルス感染によるものが考えられている.成人では特発性が多いが,病原体を確定できたものではEBウイルスが多い.傍腫瘍性小脳変性症は婦人科癌や乳癌,小細胞肺癌を伴うものが多い.
臨床症状
上気道炎,消化器症状,皮膚症状などの感染徴候に引き続いて発症することが多いが,前駆症状を欠く例もある.体幹失調による歩行障害が目立ち,数カ月で消退することが多い.四肢失調,構音障害,眼球運動異常,眼振も伴うことがある.聴力障害,視力障害,髄膜刺激症候,意識障害などを生じることもある.傍腫瘍性小脳変性症では急性ないし亜急性に進行し,オプソクローヌス・ミオクローヌスを伴うこともある.
検査成績
髄液検査では単核球優位の軽度の細胞数増加,蛋白上昇がみられることが多い.髄液のウイルス抗体価上昇やPCR法によるウイルスゲノムDNAが検出されることもある.MRIで小脳の腫脹やT2強調・FLAIR画像で高信号をみることもあるが,有意な所見をとらえられないことが多い.脳血流シンチで小脳の血流増加が急性期にみられることがある.傍腫瘍性小脳変性症では抗Yo抗体,抗Hu抗体,抗Ri抗体などの自己抗体が検出されることがある.随伴腫瘍の検索のため,MRI,超音波検査,PETなどを行う.
診断・鑑別診断
感染やワクチン接種が先行し,急性の小脳失調をきたした場合には本症を考える.傍腫瘍性小脳変性症では特徴的な自己抗体や随伴腫瘍の検索が必要である.アレビアチンなどの抗てんかん薬の中毒,Fisher症候群,Wernicke脳症,多発性硬化症,脳幹脳炎,脳幹部腫瘍などを鑑別する.病歴,髄液所見,脳MRI所見,ステロイド治療に対する反応が重要である.
治療・予後
症状が強い場合にはステロイドパルス療法を行う.特発性では,一般的に予後良好で2~3カ月で後遺症なく軽快する.まれに小脳腫脹により水頭症や小脳扁桃ヘルニア,脳幹部の圧迫による死亡例もあり,必要に応じて外科的減圧術を行う.特定のウイルス,細菌などが同定された場合にはそれぞれ特異的な治療を行う.傍腫瘍性小脳変性症の多くは,強力な免疫療法にもかかわらず症状は急性ないし亜急性に進行し障害を残して停止することが多い.[犬塚 貴]
■文献
入岡 隆,水澤英洋:感染性・傍感染性小脳炎.Clinical Neuroscience, 23: 1409-1411, 2005.
伊藤義彰:急性小脳炎.Clinical Neuroscience, 27: 1426-1428, 2009.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報