免疫療法(読み)めんえきりょうほう(英語表記)Immune therapy/Immunotherapy

知恵蔵「免疫療法」の解説

免疫療法

広義には、体内に侵入した細菌やウイルス、がん細胞などの異物を排除して体を守る免疫を利用した治療法を総称して免疫療法という。免疫の反応を誘導または増強したり、免疫の低下を抑制したりすることで、疾病の治癒や症状の軽減をはかる。ワクチン接種、アレルギーに対する減感作療法、臓器移植や自己免疫疾患に対する免疫抑制剤や免疫寛容療法も広義には免疫療法に含まれる。その他、免疫の反応を利用した様々な治療法が、その有効性の臨床的な確認によらず、広く免疫療法と呼ばれることも多い。
狭義には、主にがん細胞に対して体内の免疫を強める方法、及び体内の免疫の活性を持続する方法による治療を指し、がん免疫療法ともいう。外科治療、化学療法、放射線治療に続く第4の選択肢として期待され、研究が進んでいる。
現在、臨床において効果が認められている免疫療法は、体内の免疫細胞を活性化する「サイトカイン療法」、がん細胞が体内の免疫細胞の活性を抑制する仕組みに働きかける「免疫チェックポイント阻害剤」、その他の大きく3種類に分けられる。治療効果としては、生存期間の延長または症状の緩和、生活の質(QOL クオリティ・オブ・ライフ)の改善が認められており、治癒が確認されたものはない。治療効果があるがんの種類も現在のところ限られている。
現在、日本国内で承認され診療ガイドラインに記載されている治療法は、「免疫チェックポイント阻害剤」による薬剤治療が中心で、代表的なものにPD-1阻害剤に分類されるオプジーボがある。
PD-1はタンパク質の一種で、本庶佑・京都大学医学部教授(現・特別教授)らが発見した。その後、PD-1はリンパ球の1種であるT細胞表面にある免疫チェックポイントと呼ばれる分子であり、がん細胞の表面などにある別のタンパク質と結合すると、T細胞の活性が低下し、免疫の作用ブレーキがかかることが明らかになった。更に、本庶佑の研究室の大学院生だった岩井佳子(日本医科大教授)が、PD-1とがん細胞表面のタンパク質の結合を抗体タンパク質で阻害することで免疫のブレーキが外れ、がん細胞への攻撃力を高められることを発見した。この抗体タンパク質が、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」につながり、一連の功績によって本庶佑は2018年ノーベル医学生理学賞を受賞した。また、本庶佑と共に同賞を受賞したジェームズ・アリソン(米テキサス大MDアンダーソンがんセンター執行役員)は、別の免疫チェックポイント分子「CTLA-4」を研究し、その阻害剤からがん治療薬「ヤーボイ」が開発された。
オプジーボはヤーボイよりも効果が認められるがんの種類が多く、オプジーボにヤーボイなどを併用することによって更に高い効果が得られることもある。反面、免疫チェックポイント阻害剤には従来の抗がん剤ではあまり例のない重症筋無力症や劇症1型糖尿病といった副作用がある。国内で承認されていても診療ガイドラインには掲載されていないがん免疫療法薬剤や、新たに使用対象として認められたがんの種類に関しては、どのような副作用が起きるか明らかになっていない。免疫チェックポイント阻害剤の効果は患者のもつ遺伝子によって差があることが明らかになりつつあり、現在、事前に遺伝子を調べて治療効果を評価する手法の開発などが進められている。

(葛西奈津子 フリーランスライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)「免疫療法」の解説

免疫療法
めんえきりょうほう
immunotherapy

免疫学的治療法で、歴史的には感染症に対する特異的な能動免疫や受動免疫による治療法(ワクチン療法血清療法)をさすが、免疫学の進歩により、広く免疫細胞の活性化あるいは抑制をもたらす療法を意味するようになってきた。すなわち、人体の免疫能を補充、強化、抑制して不利益な反応を防ぐもので、それぞれ免疫補充療法、免疫強化療法、免疫抑制療法とよばれ、これらはさらに抗原特異的(選択的)と抗原非特異的(非選択的)とに分けられる。

 能動免疫による療法は、感染した病原体に対して特異的に抵抗力をつけさせるもので免疫強化療法に含まれ、病原体をワクチンとして投与し、免疫を獲得させるワクチン接種法や減感作(かんさ)療法がある。免疫強化療法にはこのほか、非特異的に免疫細胞を刺激して破綻(はたん)した免疫細胞を活性化し、修復する目的で免疫強化剤や免疫調節剤などとよばれる生物学的製剤および化学的製剤を用いる療法がある。生物学的製剤にはBCG生菌や抗酸菌細胞壁成分(BCG‐CWS)をはじめ、免疫補充療法にも用いられるインターフェロンや転移因子、胸腺(きょうせん)因子などがあり、化学製剤にはレバミゾール、イソプリノシン、ゲルマニウムなどがある。BCGは癌(がん)の免疫療法として世界的に用いられ、レバミゾールは関節リウマチに有効とされている。

 また、受動免疫による療法は人体のもっていない特異抗体(異種の動物に免疫した抗血清や抗毒素)を補充投与するもので、免疫補充療法に含まれ、血清療法、抗毒素療法とよばれる。免疫補充療法にはこのほか、正常なヒト血清からの製剤であるγ(ガンマ)‐グロブリン、遅延型過敏症を受身伝達する目的で白血球から抽出される転移因子、T細胞の機能を増強する目的で使われる胸腺因子やチモシンなど、あるいはウイルス感染に対する非特異的防御機構として重要なインターフェロンなどを使った治療法がある。

 免疫抑制療法は、臓器移植による拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の治療などに行われ、免疫抑制剤(アルキル化剤、プリン拮抗(きっこう)剤、ピリミジン拮抗剤、抗生物質、副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤など)が使われるほか、X線照射、胸腺摘除、胸腺ドレナージ、抗リンパ球抗体の投与なども行われる。

 なお、免疫療法はその性質上、単独で疾患を治療できるのは限られたものにすぎず、癌の免疫療法でも手術療法、放射線療法、化学療法との併用が必要で、集学的治療の一環として行われている。

[柳下徳雄]

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知恵蔵mini「免疫療法」の解説

免疫療法

体の免疫力を高めることで、がん細胞の排除を目指す治療法の総称。1890年代に米国で始まったとされる。研究開発が本格化した1970年代から80年代にかけて、免疫賦活剤(めんえきふかつざい、BRM)療法、サイトカイン療法、活性化リンパ球療法などの、体全体の免疫を活性化する「非特異的免疫療法」が考案された。90年代以降はペプチドワクチン療法や樹状細胞ワクチン療法といった、がん細胞に特異的な作用が期待できるとされる「特異的免疫療法」へと形を変えている。また、免疫力を増強するこれらの治療法に加えて、がん細胞がかけた免疫のブレーキを解除する免疫抑制阻害療法も開発されている。免疫療法は外科治療、化学療法、放射線治療に続く第4のがん治療法として期待を集めているが、その多くは国が効果を確認しておらず、保険診療が適用されていない。2017年には、厚生労働省が指定している全国のがん拠点病院のうち12の病院で15年に効果未確認の免疫療法が実施されていたことがNHKの取材によって明らかになり、物議を醸した。

(2017-10-3)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「免疫療法」の解説

免疫療法
めんえきりょうほう
immunotherapy

人体に免疫を与えて治療する方法で,次の2種に大別できる。 (1) 受動的療法 抗体や,抗体を含む免疫グロブリン注射によって与える方法で,抗体を多く含む動物や回復期患者の抗菌性血清と,抗毒素血清が用いられる。そのほか,免疫不全症にはガンマグロブリン療法が行われる。 (2) 能動的療法 ワクチンを投与して特異的な免疫を体内で生成させるもので,予防接種がこれにあたる。

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精選版 日本国語大辞典「免疫療法」の解説

めんえき‐りょうほう ‥レウハフ【免疫療法】

〘名〙 免疫①の現象を応用した病気の治療法。免疫血清を注射して病原体や毒素の作用を中和する受動免疫療法、ワクチンを注射して免疫性を獲得する能動的予防法などがある。

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デジタル大辞泉「免疫療法」の解説

めんえき‐りょうほう〔‐レウハフ〕【免疫療法】

免疫反応を利用した治療法。ワクチン接種など。

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世界大百科事典 第2版「免疫療法」の解説

めんえきりょうほう【免疫療法 immunotherapy】

免疫療法は,人体の免疫能を強化,補充,抑制して,人体にとって不利益な反応を防ごうとするもので,特異的免疫療法と非特異的免疫療法に分けられる。
[特異的免疫療法]
 これには能動免疫療法と受動免疫療法の二つがある。(1)能動免疫療法は目的とする病原体の感染に対して特異的に抵抗力をつけさせようとするもので,病原体をワクチンとして投与して免疫を獲得させるものであり,三種混合ワクチン(百日咳,破傷風ジフテリア),ポリオ,日本脳炎,インフルエンザ風疹,BCGなどのワクチンが代表的である。

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世界大百科事典内の免疫療法の言及

【癌】より

…また長く治療を続けると薬剤耐性を生じるなど,今後克服すべき課題をかかえている。 免疫療法は,癌患者の免疫力を増強し,癌を抑え込もうと試みるものである。癌細胞の抗原性を増加させる研究もある。…

※「免疫療法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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