内科学 第10版 「感染症の予防対策」の解説
感染症の予防対策(感染症総論)
感染症が成立するための3要素は,病原体(感染源),感染経路,宿主である.感染症の予防対策もこの3要素を考慮することになる.宿主が健常人の場合,感染症の原因は比較的病原性の高い病原体が問題となる.幼児や高齢者,免疫抑制作用のある薬剤の投与を受けている者,熱傷患者,HIV感染者,病院に入院中の患者,特に血管内留置カテーテルや尿路カテーテルを装着している者など何らかの理由で免疫防御能が低下した者(コンプロマイズド・ホスト)では,病原性の弱い病原体による感染症(日和見感染症)も考慮しなければならない.病原体はそれぞれ特有の感染経路を有しているので,感染症の予防に際しては感染経路を考慮する必要がある.重複する部分もあるが,呼吸器感染(飛沫感染および空気感染),経口感染,接触感染,血液媒介感染,性感染,動物媒介性感染,節足動物媒介性感染など,それぞれの感染経路について予防対策がありうる.病院内での感染予防については後述する.
(2)海外旅行と感染予防対策
先進工業国と途上国を比較した場合,一般的に熱帯,亜熱帯に位置する途上国では感染症を媒介する動物も多く,感染症の頻度は高い.飲料水や食物の安全性に問題がある場合もある.海外旅行に際しては,旅行先の地理的な位置,感染症事情,都市部だけに滞在するのか,農村や山岳地帯にも行くのか,旅行期間は短いのか長いのか,さまざまな要因を考慮する必要がある.マラリアの流行地域であっても,都市部への短期間の旅行であればマラリア予防薬を必要としないことが多い.渡航先での滞在期間が長い場合や仕事場所が医療施設から遠い場合,仕事内容で蚊に刺される可能性が高い場合などは,マラリア予防薬の副作用と有用性を勘案して予防策を決定することになる.WHOのホームページから海外旅行時の注意をまとめた冊子(International travel and health)のダウンロードが可能である(http://www.who.int/ith/en/).[岩本愛𠮷]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報