戦域ミサイル防衛(読み)せんいきみさいるぼうえい(その他表記)Theater Missile Defense

日本大百科全書(ニッポニカ) 「戦域ミサイル防衛」の意味・わかりやすい解説

戦域ミサイル防衛
せんいきみさいるぼうえい
Theater Missile Defense

海外駐留米軍や同盟国をめがけて飛来する弾道ミサイルを打ち落とすことを目的としたミサイル防衛システム。略称TMD。アメリカのG・W・ブッシュ政権(2001~2009)誕生以降、TMDはミサイル防衛(MD=Missile Defense)に引き継がれることになった。

 クリントン政権発足直後の1993年5月、アメリカの国防長官アスピンが、旧ソ連からの攻撃を想定した戦略防衛構想SDIStrategic Defense Initiative)の終了を表明し、冷戦後の新たな危機に対処するため、TMDを優先する方針を明らかにしたことに始まる。TMDは、大気圏外を含む高層迎撃するシステムと、大気圏内の低層で迎撃するシステムを組み合わせて運用される防衛システムで、陸上配備では、高層を対象とした戦域高高度広域防衛システム(THAAD(サード)=Terminal High Altitude Area Defense)、低層を対象としたペトリオット改良型システム(PAC-3=Patriot Advanced Capability 3)、海上配備では、自律機動する特殊な弾頭によって、大気圏外で弾道ミサイルを撃墜するSM-3ミサイルを搭載したイージス艦を配備することになっていた。2001年以降、G・W・ブッシュ政権がTMDとアメリカ本土を守る国家ミサイル防衛(NMD=National Missile Defense)を包括した新たな弾道ミサイル防衛BMD構想を打ち出したことを受けて、TMDはMDに引き継がれた。

 なお2001年12月、アメリカは弾道弾迎撃ミサイル(ABM)の配備を制限することによって相互確証破壊を保証していたABM制限条約から脱退し、BMDの配備を本格的に推進している。

[村井友秀]

『山下正光・高井晋・岩田修一郎著『TMD 戦域弾道ミサイル防衛』(1994・TBSブリタニカ)』『小都元著『ミサイル防衛の基礎知識』(2002・新紀元社)』『坂上芳洋著『世界のミサイル防衛』(2003・アリアドネ企画、三修社発売)』『金田秀昭著『ミリタリー選書27 BMD<弾道ミサイル防衛>がわかる――突如襲い来る弾道ミサイルの脅威に対抗せよ』(2008・イカロス出版)』『能勢伸之著『ミサイル防衛――日本は脅威にどう立ち向かうのか』(新潮新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「戦域ミサイル防衛」の意味・わかりやすい解説

戦域ミサイル防衛
せんいきミサイルぼうえい
Theater Missile Defense; TMD

中・短距離弾道ミサイルによる攻撃を複合迎撃システムで撃破する構想。 1993年アメリカのクリントン政権が,R.レーガン大統領が打ち出した戦略防衛構想SDIに代わるものとして提案。限定的弾道ミサイル防御システム GPALSからブリリアント・ペブルズなどを削減して,より簡素化した。防衛に空白が生じないよう,弾道ミサイルによる攻撃を3段階に分け,発射直後のブースト段階,大気圏外から落下し始めるアッパーティア,大気圏内のローアーティアのそれぞれで迎撃を行なう3段構えのシステムが計画された。システムのほとんどは SDI計画を引き継ぐもので,その後アメリカ本土ミサイル防衛 National Missile Defence;NMDとともにミサイル防衛に一本化された。

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