弾道ミサイル防衛(読み)だんどうみさいるぼうえい(英語表記)Ballistic Missile Defense

共同通信ニュース用語解説 「弾道ミサイル防衛」の解説

弾道ミサイル防衛(BMD)

飛来する弾道ミサイルを迎撃する防空システム。日本は北朝鮮に対処するため2003年に導入を決めた。大気圏外を飛行中に海上自衛隊イージス艦に搭載された迎撃ミサイル(SM3)で狙い、撃ち漏らした場合、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が地上で迎え撃つ二段構え探知追尾に関しては、ミサイル発射地域や発射時刻、落下予想地域などの早期警戒衛星情報を米軍が短時間で解析して自衛隊に伝達している。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「弾道ミサイル防衛」の意味・わかりやすい解説

弾道ミサイル防衛
だんどうみさいるぼうえい
Ballistic Missile Defense

弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃墜することによって弾道ミサイルの脅威を無力化しようとする防衛システム。略称BMD。単にMDともいう。BMDは弾道ミサイルを開発しようとする意図をくじき、弾道ミサイルの拡散を防ぐことができる。アメリカでは、G・W・ブッシュ政権(2001~2009)以降、MDはそれまでの戦域ミサイル防衛TMD)を引き継ぐことになった。

[村井友秀]

沿革

BMDの原型は、レーガン政権時代(1981~1989)の1984年に始まったスターウォーズ計画といわれた戦略防衛構想SDIStrategic Defense Initiative)である。冷戦時代、弾道ミサイルを搭載した潜水艦による反撃能力を保証することによって、戦争を始めた側も大損害を被るという相互確証破壊(MAD=Mutual Assured Destruction)がロングピース(長期にわたる平和)を維持してきた。これに対して、SDIは弾道ミサイルによる攻撃を無力化することによって戦争を始めた側に勝利を与えず戦争を抑止しようとしたものであった。その後、SDI計画は技術的および予算的制約によって縮小されたもののアイデアは生き続け、G・H・W・ブッシュ政権時代(1989~1993)の1991年に始まった限定的弾道ミサイルに対するグローバル防衛(GPALS=Global Protection Against Limited Strikes)、クリントン政権時代(1993~2001)のTMDと国家ミサイル防衛(NMD=National Missile Defense)に引き継がれた。G・W・ブッシュ政権は2001年からMDとしてミサイル防衛計画を進め、同年12月には弾道弾迎撃ミサイル(ABM)の配備を制限することによって相互確証破壊を保証していたABM制限条約から脱退することを表明(翌年6月正式脱退)した。オバマ政権(2009~ )は、2010年2月に弾道ミサイル・レビュー(BMDRR=Ballistic Missile Defense Review Report)において弾道ミサイル防衛に関するアメリカの長期戦略を発表している。

[村井友秀]

内容

弾道ミサイルの飛行経路は、次の三つの段階に分類できる。

(1)発射された直後でロケットエンジンが燃焼し、加速しているブースト段階。この段階は燃焼するロケットエンジンの熱によって容易に赤外線で探知することができる。囮(おとり)弾頭も分離していない。

(2)ロケットエンジンの燃焼が終了し、慣性運動によって宇宙空間(大気圏外)を飛行しているミッドコース段階。囮弾頭が分離している。

(3)大気圏に再突入し音速の10倍を超える高速で着弾するまでのターミナル段階
 アメリカではブースト段階において、航空機に搭載したレーザーシステム(ABL=Airborne Laser)で弾道ミサイルを撃墜する空中配備型のシステムが計画されている。ミッドコース段階で弾道ミサイルを迎撃するためのシステムとして、地上配備型ミッドコース防衛システム(GMD=Ground-based Mid-course Defense)と海上配備型ミッドコース防衛システム(SMD=Sea-based Mid-course Defense)がある。GMDは固定式のミサイルサイトやレーダーサイトからなる。また、SMDでは、イージス艦を使用して弾道ミサイルを探知し、イージス艦から発射する迎撃ミサイル(SM-3=Standard Missile 3)によってミッドコース段階で迎撃する。現在、イージス・システムの改修のほか迎撃用ミサイルの開発、レーダーの改良などが進められている。ターミナル段階で弾道ミサイルを迎撃するためのシステムとして、地上配備型のシステムであるターミナル段階高高度地域防衛システム(THAAD(サード)=Terminal High Altitude Area Defense)、地対空誘導弾ペトリオット・システム(PAC-3=Patriot Advanced Capability 3)などがある。THAADは大気圏外と大気圏内で迎撃する。PAC-3は大気圏内の近距離で迎撃する。また、弾道ミサイルを早期に探知するために、地上配備や海上配備のレーダーとともに人工衛星による監視が行われている。

 日本政府は1998年(平成10)に海上配備型ミッドコース防衛システムの日米共同技術研究に着手した。日本のBMDシステムは、日本がすでに保有しているイージス艦と地対空誘導弾ペトリオット・システムの能力向上などにより弾道ミサイルの脅威に対抗しようとするものである。また、従来型の経空脅威(航空機等)と弾道ミサイルの双方に対応できる併用レーダーFPS-5が新たに整備され始めている。2011年度までには、イージス艦(4隻)、ペトリオットPAC-3(16個射撃単位)、FPS-5(4基)、FPS-3改(7基)を指揮・通信システムで連接したBMDシステムを構築することを目標としている。なお、イスラエルは2000年3月世界で初めてBMD(Arrow Ⅱ System)を実戦配備した。

[村井友秀]

『小都元著『ミサイル防衛の基礎知識』(2002・新紀元社)』『坂上芳洋著『世界のミサイル防衛』(2003・アリアドネ企画、三修社発売)』『金田秀昭著『ミリタリー選書27 BMD<弾道ミサイル防衛>がわかる――突如襲い来る弾道ミサイルの脅威に対抗せよ』(2008・イカロス出版)』『能勢伸之著『ミサイル防衛――日本は脅威にどう立ち向かうのか』(新潮新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「弾道ミサイル防衛」の意味・わかりやすい解説

弾道ミサイル防衛
だんどうミサイルぼうえい
Ballistic Missile Defense; BMD

戦域弾道ミサイルの発射を早期警戒衛星で探知し,迎撃ミサイルや改良型パトリオットイージス艦など複合迎撃システムで撃破する防衛構想。アメリカが開発を進め,日本にも参加を求めていたもので,1996年,早期警戒警報の提供で両国の合意が成立した。海外配備のアメリカ軍および同盟・友好国の防衛を目的とする戦域ミサイル防衛 TMDと,アメリカ本土防衛を目的とするアメリカ本土ミサイル防衛 National Missile Defense; NMDの2本の柱からなり,その後ミサイル防衛に一本化された。

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