攻撃行動(読み)こうげきこうどう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「攻撃行動」の意味・わかりやすい解説

攻撃行動
こうげきこうどう

動物が同種他個体に威嚇したり、襲いかかったりする行動。攻撃行動によって、同種個体の分散、縄張りや順位の確立と維持がなされ、食物や隠れ場などの確保、雌の確保や子の保護など、個体の生存や繁殖に不可欠な多くのことが実現される。

 ローレンツによれば、攻撃行動は、それぞれの種に遺伝的に備わった攻撃性に基づくもので、一定のリリーサー(解発因)によって解発される。すなわち、縄張りをもつヨーロッパコマドリの雄の攻撃行動は、赤いはねの胸によって引き起こされる。トゲウオでは、赤い色をした腹が闘争を解発する。攻撃行動は、一方では闘争個体の傷害や死を引き起こす可能性を秘めている。しかし、これは多くの場合、それぞれの種に生得的に備わっている儀式化された闘争パターンによって回避されている。ダマジカの雄は、互いの角(つの)をぶつけ合うレスリングをし、長くもちこたえたほうが勝ちとなる。闘争中のオオカミは、互いに相手の牙(きば)をかみ合う。敗者は頭を垂れ、急所である頸(くび)すじを相手にさらすことにより闘争は終わる。多くの動物では、このような身体的闘争に至る前に、誇張された姿勢、動作、音声などにより相手を威嚇する。ネコが背を高くし、毛を逆立て、フーッ、フーッと発声する動作、トカゲの雄が体を膨らませる行動、ヤシガニがはさみを上げる動作などは、いずれも威嚇のディスプレーである。一般に、威嚇している動物は、自分を大きく見せたりすることにより強く見せようとする。カワラヒワの採食中の群れでみられるように、群れで生活している動物であっても、各個体は攻撃性により一定の距離(個体間距離)を保っている。また、ニホンザルのように互いに識別しあった群れを形成しているものでは、攻撃性に基づく順位を確立し、群れの秩序を維持している。攻撃性が場所と結び付いた場合、一般に縄張りという形態がとられる。

 攻撃行動は、他種の個体を撃退する場合にもとられる。樹洞に営巣するシジュウカラコムクドリなどは、巣穴をめぐり種間でも争う。ガのエゾヨツメは、捕食者に対して後翅(こうし)の眼状紋を誇示した威嚇ディスプレーにより捕食を避けようとする。多くの小鳥類は、フクロウなどの捕食者の周りに集まって騒ぎたて、見せかけの攻撃行動を加える。なお、獲物に対する捕食者の行動は、見かけは攻撃行動と似るが、動機づけが異なるので、攻撃行動とはよばない。

[中村浩志]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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