日本大百科全書(ニッポニカ) 「放射線育種」の意味・わかりやすい解説
放射線育種
ほうしゃせんいくしゅ
紫外線、X線、γ(ガンマ)線などの電磁波や中性子、α(アルファ)線、β(ベータ)線などの粒子線が遺伝的物質に与える物理化学的・生物学的影響を利用して行う育種をいう。紫外線は波長が長く透過力が弱いため、微生物、培養細胞、花粉、胞子などに適用する。γ線やX線は0.001~10オングストロームで、いずれも透過力は強く、種子や生体照射によく使われる。γ線の線源にはコバルト60やセシウム137の使用が多い。中性子は電荷をもたないが、突然変異源としての効果は大きい。これら諸放射線の照射には、生物の外部から行う外部照射と、リン32や硫黄(いおう)35、三重水素などのアイソトープを吸収させて行う、主としてβ線による内部照射がある。外部照射ではX線とγ線が多く用いられ、照射装置、照射面積などの関係から、種子や小材料にはX線が、個体や集団対象で長期連続照射にはコバルト60を線源としたガンマフィールドの利用が多い。多線量を数日の短期に照射する場合を急照射といい、低線量ずつ長期にわたり照射する場合を緩照射という。放射線によっておこる突然変異は潜性突然変異、染色体構造異常による変異が多く、ポリジーン(相加遺伝子の一種)の変異もみられる。この類の育種成果には、コバルト60γ線によるイネ品種レイメイのほか、リンゴのふじの着色系、はっか精油含量増その他がある。
[飯塚宗夫]