改訂新版 世界大百科事典 「早植栽培」の意味・わかりやすい解説
早植栽培 (はやうえさいばい)
農作物を普通期より早めに移植して育てる栽培法のことで,水稲作でいわれることが多い。水稲作では類似するものに,西南日本の暖地に普及している早期栽培があるが,早植栽培は東北地方を中心に寒冷地に普及しているもので,その目的は早期栽培とは異なっている。寒冷地では熱帯起原の作物である水稲にとって生育可能な期間は限られており,とくに作期の始まりと終りの時期にはきびしい低温にさらされる危険が伴っている。第2次世界大戦後に普及した保温折衷苗代やその後出現するビニル資材を利用した各種の保護苗代は,寒冷な春先の気象条件下で健全な苗を育成することを可能にし,播種期ならびに移植期を20日以上早めた早植栽培を実現させた。早植による生育期間の延長は生育量ひいては収量の増加に結びつくものであり,一方,収穫期の繰上げは秋冷の危険から免れるという利点がある。現在,東北地方を中心として,日本の寒冷地の稲作のほとんどはこの方式によるものであり,あえて早植栽培とは呼ばれないほどになっている。1950年代の半ば以後,日本の稲作が栽培面積のみならず収穫量においても東北日本の占める割合が高まってきたことは,この方式の普及によるところが大きい。ただし早期栽培の場合と同様,前作物の作期を制限することが,土地の高度利用の上では大きな問題となる。
執筆者:山崎 耕宇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報