日本映画。1936年(昭和11)、川端康成(かわばたやすなり)の短編『有難う』を原作に、清水宏(しみずひろし)が脚本・監督した松竹作品。南伊豆の村々を結ぶ路線バスの運転手“有りがとうさん”(上原謙(うえはらけん)、1909―1991)は、バスに道を譲る人々や動物に「有りがとう」と声をかけながら走る心優しい若者。彼は、東京へ売られていく娘とその老母、流れ者の粋(いき)な酌婦(桑野通子(くわのみちこ)、1915―1946)をはじめ、曰(いわ)くありげな乗客たちを乗せて出発するが、道路工事の現場を移動し続ける朝鮮人一家など、道中で接する貧しい人々の悲哀に胸を痛め、売られていく娘に心を砕く。全編みずみずしいロケーション撮影で、のどかな伊豆の自然を背景に、バスの乗客と道行く人々の人生を詩情豊かに描きだした先駆的なロード・ムービー。車内のドラマも、乗客間のやりとりやバック・ミラーを効果的に使った視線の提示を通して、“有りがとうさん”を含めたそれぞれの心情を丁寧に描くなど、演技主体の演出法とは対照的な「実写的精神」と評された清水話法を確認できる。
[冨田美香]
『佐藤忠男著『日本映画の巨匠たち1』(1996・学陽書房)』▽『田中眞澄・木全公彦・佐藤武・佐藤千広編著『映畫読本 清水宏』(2000/改訂版2009・フィルムアート社)』
…〈映画から極力舞台的な芝居を除きたい〉という〈実写的精神〉に基づく映画作法で,坪田譲治原作の《風の中の子供》《子供の四季》から,敗戦後,みずから世話をしていた戦災孤児たちを主人公に,カメラマン,助監督以外はすべて素人のスタッフとキャストで自主製作した《蜂の巣の子供達》(1948)とそれに続く《その後の蜂の巣の子供達》(1951),《大仏さまと子供たち》(1952)の三部作に至る,子どもを描いた数々の作品に独自の境地をひらく。また,フランク・キャプラの《或る夜の出来事》(1934)をヒントにしたといわれる《恋愛修学旅行》(1934)や,伊豆をめぐる1台のバスを舞台にした,当時としては異例のオール・ロケ撮影による《有りがたうさん》(1936)など,〈旅〉を描いた映画に秀作が多い。清水宏の〈子供もの〉〈旅もの〉は,清水が交流のあった1930年代の稲垣浩や山中貞雄が股旅もので追求した〈自然と心理を一体化して,豊かな雰囲気を醸し出す表現を現代劇で追求したもの〉といわれている。…
※「有りがたうさん」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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