内科学 第10版 「本態性低血圧」の解説
本態性低血圧(低血圧)
明らかな原因がなく,血圧が慢性的に低い状態(収縮期血圧<100 mmHg)で,倦怠感などの愁訴はあっても,基礎疾患が特にない低血圧と定義される.
女性に多く,多因子遺伝に生活習慣,食事習慣,運動習慣が重なって発症すると考えられる.本態性低血圧患者はうつ傾向などの心理的要因を有する場合が多く,日常生活も,リズムのない,運動の乏しい,夜更かしがちの生活などが多い.
臨床症状・診断
低血圧の原因となる基礎疾患のないことを確認する. 症状は易疲労感,頭痛,頭重,肩こり,立ちくらみ,失神,めまい,耳鳴り,不眠,動悸,胸痛,胸部圧迫感,食欲不振,便秘,腹部膨満感,悪心などである.うつ傾向を示す場合もある. 診断には随時血圧のほか,24時間血圧計による日内変動の観察も有用である.
治療
基礎疾患がなく,無症状の場合は放置してよい.一方,めまい,ふらつきなどの症状が強く,日常生活に支障をきたす場合には治療が必要である.治療には生活改善,食事療法,運動療法,薬物療法がある.
1)生活改善:
十分な睡眠をとり規則正しい生活を心がける.
2)食事療法:
規則正しい食事と水分摂取を心がけ,合併症がない場合は食塩を十分に摂取する.
3)運動療法:
本症には運動不足などの生活習慣が関係しているといわれ,水泳,ウォーキングなどの運動は有効である.また下肢筋トレーニングも,筋ポンプ力を増すため有効である.
4)薬物療法:
上記の生活指導にて改善がない場合,起立性低血圧に準じた薬物を使用する.[佐藤伸之・長谷部直幸]
■文献
稲葉宗通,野口雄一,他:低血圧.日本臨牀,循環器症候群Ⅰ,pp120-123, 2007.
中村由紀夫,大倉誓一郎,他:起立性低血圧.日本臨牀,循環器症候群Ⅰ,pp124-127, 2007.
高橋 昭監修,長谷川康博,古池保雄編:食事性低血圧,南山堂,東京,2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報