知恵蔵 「東シナ海の防空識別圏」の解説
東シナ海の防空識別圏
中国の設定する東シナ海のADIZには、尖閣諸島のほか中韓で管轄権を争う暗礁である蘇岩礁(韓国では離於島などとする)が含まれる。また、飛行安全を保証することを根拠に、この空域を飛行する航空機について中国外務省か民用航空局に飛行計画を届け出ることを義務付けた。更に、事前通告がなければ強制措置を取る可能性も示唆している。米国政府は、中国のADIZの設定そのものには特定の見解はないが、一方的な行動があればその限りでないとし、自国の航空会社には飛行計画の提出を勧告している。
日本政府はこのADIZ設定に激しく反発し中国に撤回を要求、国内航空会社には中国に飛行計画を提出しないよう求めた。国土交通省は、中国当局側から航行の自由を確認したと発表し、国内航空会社も運航の安全が確認されたとして、飛行計画の提出はとりやめた。12月6、7日には衆参両議院とも本会議において、日本の領土を中国の領空のように扱う領土主権への侵害であるとして全会一致で抗議、撤回を求める決議が行われた。その一方中国は、これらの動きに対して「故意に政治化している」などと非難している。
韓国当局も当初は中国側にADIZの変更を求めるとともに、飛行計画は従来通り中国には提出しないよう告知した。更に、12月8日には韓国国防省が韓国の防空識別圏を、中国、日本のADIZに重なるかたちで拡大することを発表した。これによれば、韓国領土ながら日本のADIZ内にあった馬羅島や鴻池島周辺で日本と韓国のADIZが重複する。蘇岩礁周辺では中国も合わせて日中韓3国のADIZが重なることになる。韓国政府は日米中の3国には事前に説明、関係各国の理解を得られたとする。韓国のADIZ拡大は15日から実施、それまでに日中韓で具体的な運用などを協議するとした。また、中国ADIZを通過する韓国航空機は飛行計画を中国側に提出すると姿勢を転換している。各国のADIZに関する理解及び認識の差が浮き出たかたちとなり、今後の推移が注目されている。
(金谷俊秀 ライター / 2013年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報