民法上は、意思表示をなした者が、その意思表示の効果を将来に向かって消滅させることをいう。一般に意思表示は、相手方に到達することによって効力を生ずるので、到達するまでは撤回できる。撤回は、一方的意思表示によってなされる点で、取消しと類似しているが、両者は次の点で異なっている。すなわち、取消しは、すでに発生した行為の効力を、一定の取消原因(制限行為能力、詐欺・強迫)のあるときに限り、過去にさかのぼって法律効果を消滅させるのに対し、撤回は、自己がなした行為の効力が発生しないことを欲して、意思表示の効果を将来に向かって消滅させるにすぎない。民法典には、撤回という用語は用いられていないが、取消しという用語が使用されている場合であっても、撤回の意味に解すべき場合が少なくない。たとえば、営業許可の取消し(民法6条2項)、無権代理行為の取消し(同法115条)などの場合である。
[竹内俊雄]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報