日本大百科全書(ニッポニカ) 「歴史的批判的辞典」の意味・わかりやすい解説
歴史的批判的辞典
れきしてきひはんてきじてん
Dictionnaire historique et critique
17世紀末フランスの哲学者ベールの主著。1696~97年刊。古今東西の宗教家、哲学者、文学者、科学者についての伝記的な本文に脚注をつける形式をとっている。本書は他の辞典類の誤記や歴史の伝説化を正す「誤謬(ごびゅう)の辞典」をつくろうという意図によって生まれ、ここでは人文主義者的な驚くべき博識を背景に、従来の歴史観のみならず、神学や形而上(けいじじょう)学が、自由で辛辣(しんらつ)な風刺精神によって批判されている。また、本文が常識的な記述であるのに対し、小さな活字で組まれた膨大な脚注には、毒舌を交えた懐疑主義的批判が徹底されており、18世紀の啓蒙(けいもう)思想家に多大の影響を及ぼした。「啓蒙思想の宝庫」とはボルテールの評である。
[香川知晶]
『野沢協訳『ピエール・ベール著作集 歴史批評辞典』全3巻(1982~87・法政大学出版会)』