日本大百科全書(ニッポニカ) 「気管内麻酔法」の意味・わかりやすい解説
気管内麻酔法
きかんないますいほう
全身麻酔の際に、マスクのかわりに気管内にチューブを挿入して行う麻酔法をいう。気管内挿管の経路は、経口的と経鼻的とに分かれるが、ときには気管切開をして挿管することもある。挿管する場合には、あらかじめ、全身麻酔後に筋弛緩(きんしかん)薬を用いるか、十分に局所麻酔を行う必要がある。経口的に挿管する場合には、一般には喉頭(こうとう)鏡によって声門(気管の入口)をよく見ながら挿管する。解剖学的に口がよく開かないような場合や挿管が困難な患者には盲目的に挿管(目視に頼らず、呼吸音を聴いて気管の入り口を把握し挿管すること)したり、ファイバースコープによって挿管する方法も行われる。
気管内挿管によって得られる利点として次のようなことがあげられる。
(1)麻酔中、気道が閉塞(へいそく)する危険(窒息する危険)が避けられる。
(2)チューブが直接気管とつながっているので、消化管からの異物、たとえば吐いた物などが気管に入る心配がない。
(3)気道に圧を加えることは、肺を膨らませることになるので、人工呼吸が円滑に行われガス交換が能率的に行われる(調節呼吸)。
(4)マスクでは不可能な鼻や口腔(こうくう)内の手術を行うことができる。
(5)うつぶせその他の特別の体位のときでも吸入麻酔および調節呼吸が可能である。
挿管操作は未熟だと合併症もおこるが、熟練した者が行えば安全である。現在、大手術の際にはほとんどこの麻酔法が行われている。
[山村秀夫・山田芳嗣]