改訂新版 世界大百科事典 「池の精」の意味・わかりやすい解説
池の精 (いけのせい)
《グリム童話》181番の題名であるが,これと同系統の昔話が,北欧,中欧,ギリシアなどにも分布している。貧乏な水車小屋の主人の前に水の精が現れ,今生まれたものをくれたら幸せにするという。男は犬か猫の子と思ってそれを約束するが,帰宅してみると息子が生まれている。男の家は裕福になり,息子も狩人になって結婚する。しかし息子は水の精に水中へ引きこまれる。妻は草原の小屋へ行き,老婆から黄金の櫛,笛,糸車をもらい,それによって夫を救出する。水の精が追ってくると夫は蛙に,妻はひき蛙に変身して,別れ別れになる。人間にもどって羊飼いになり,やがて偶然に出会い,男の笛の音で身元がわかる。
井戸あるいは池にすむ精は,元来古代ゲルマン人の信仰では,ホルダ,ホラとよばれる水の女神で,それに人間や動物などの犠牲を捧げる習俗があった。ところが,キリスト教の伝来と共に,人間を取る悪霊とされ,恐れられるようになった。日本の〈猿婿〉〈蛇婿入り〉では田に水を入れたお礼に娘が要求され,この話の前半部に相当するところで終わる。その後に配偶者探しがあるところがヨーロッパの類話の特徴であるが,娘を要求するのが動物である点,日本の方が古い形をとどめていると思われる。
執筆者:小澤 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報