訴訟にかかる費用のうち、法律に定められたものをいう。
[内田一郎]
訴訟中で生じた費用のうち法律がとくに刑事訴訟費用として定めるものをいい、以下のものがある。
(1)公判期日もしくは公判準備につき出頭させ、または公判期日もしくは公判準備において取り調べた証人等に支給すべき旅費、日当および宿泊料
(2)公判期日または公判準備において鑑定、通訳または翻訳をさせた鑑定人、通訳人または翻訳人に支給すべき鑑定料、通訳料または翻訳料および支払い、または償還すべき費用
(3)刑事訴訟法第38条2項の規定により弁護人に支給すべき旅費、日当、宿泊料および報酬(以上、刑事訴訟費用等に関する法律2条。なお、他の法令に定めるものもある=同法1条)
刑の言渡しをしたときは、貧困のため訴訟費用を納付することができないことが明らかであるときを除き、被告人に訴訟費用の全部または一部を負担させなければならない(刑事訴訟法181条)。共犯の訴訟費用は、共犯人に連帯して負担させることができる(同法182条)。被告人が無罪または免訴の裁判を受けた場合、告訴人、告発人または請求人に故意または重大な過失があったときは、その者に訴訟費用を負担させることができる(同法183条1項)。検察官以外の者が上訴等を取り下げたときは、その者に上訴、再審または正式裁判に関する費用を負担させることができる(同法184条)。訴訟費用を負担させるには職権でその裁判をしなければならない。この裁判に対しては場合により、不服申立てまたは即時抗告が認められる(同法185条、186条)。負担額の算定を執行の指揮をすべき検察官がする場合がある(同法188条)。また、貧困を理由とする訴訟費用執行免除の申立ての制度がある(同法500条)。
以上は、すべて公訴提起があったときの訴訟費用の負担に関する規定であるが、2004年(平成16)の刑事訴訟法改正により、不起訴となった事件についての訴訟費用の負担に関する規定が整備された。公訴が提起されなかった場合において、被疑者段階の国選弁護費用は、原則として被疑者に負担させることはないが、被疑者の責めに帰すべき事由により生じた費用があるときは、これを被疑者に負担させることができる(181条4項)。また、公訴が提起されなかった場合において、告訴人、告発人などに故意または重大な過失があったときは、これらの者に訴訟費用を負担させることができる(183条2項)。
[内田一郎・田口守一]
訴訟の遂行・審判のために直接必要なものとして当事者および裁判所が支出した費用のうち法定範囲のものをいう。国家は民事訴訟制度を設けているのであって、その機構自体の経費、たとえば裁判所の人件費や営繕費などは国家の予算でまかなっているが、個々の訴訟遂行に必要な費用は、これをその訴訟の当事者その他の関係人に負担させることとしている。そこで訴訟費用とは、当事者が個々の訴訟遂行に直接必要な当該訴訟手続に関して生じた費用のことであり、民事訴訟法上では、「民事訴訟費用等に関する法律」(昭和46年法律第40号)第2条が定めているものが訴訟費用となり、その額も同条の定めによる。
訴訟費用は裁判費用と当事者費用に分類できる。裁判費用とは、当事者が訴訟遂行するについて裁判所に納付しなければならない費額で、たとえば、申立ての手数料、送達・公告・証拠調べの費用などである。当事者費用とは、当事者自身が訴訟遂行について裁判所に納付することなく、自ら支出しなければならない費用である。たとえば、訴状その他の訴訟書類の作成費用、当事者が口頭弁論期日に出頭するために必要な旅費、日当、宿泊料などである。当事者費用は裁判費用とは異なり、訴訟上の救助を受けた者でも、自ら支出しなければならない。なお、当事者が訴訟遂行のために依頼した弁護士に対する費用は、訴訟費用に入らないとするのが通説である。しかし、弁護士報酬も訴訟費用に含ませるべき、との主張も強い。訴訟費用は、原則として敗訴の当事者が負担することとなっている(民事訴訟法61条、例外62条以下)。
[内田武吉・加藤哲夫]
(1)民事訴訟において訴訟費用とは,訴訟の追行および審判のために必要なものとして,当事者および裁判所の支出した費用で,〈民事訴訟費用等に関する法律〉(1971公布)の定める範囲のものをいう。裁判所の行為につき支出される費用(裁判費用)と当事者自身が訴訟追行のために支出する費用(当事者費用)とに分かれる。裁判費用のうち申立て手数料(通常は訴額に応じて定まる)は,訴状等に印紙をはって納めることにより国庫に納入され,また証人の出頭につき支出される旅費・日当・宿泊料や鑑定料,送達の郵便料等は当事者が予納しなければならない。当事者費用とは,訴訟書類の作成費,当事者の出頭に要する旅費等である。裁判所が弁護士の付添いを命じた場合(民事訴訟法155条)を除き,弁護士への報酬は訴訟費用とはならない。
勝訴の見込みはあるが資力のない者は,訴訟救助の申立てをすることができ,救助の決定があれば,印紙貼用や予納の義務は猶予される(82~83条)。しかし現金の貸与を受けるわけではないから,自己負担である弁護士報酬の問題も含めて,訴訟による私人の権利の実効的な保護のためには,法律扶助制度の充実が必要である。
訴訟費用は敗訴者が負担するのが原則であるが,責ある当事者が一部または全部を負担することや,代理人等当事者以外の者が費用の負担やその償還を命じられることもある(61~63条,69条,192条,200条,216条)。訴訟費用の負担を命じる裁判は,本訴請求に対する裁判と同時に職権でなされ,和解等裁判によらずに訴訟が終了するときは申立てにより決定でなされる(72条,73条)。裁判で費用の額が定められていないときには,その確定のため簡易な手続が設けられている(71条)。費用に関する裁判を債務名義として,負担者に対し自己の支出した費用につき強制執行をすることができる。また,費用の取立てを確保するため,原告の住所等が日本にないとき,被告は原告に訴訟費用の担保の提供を求めることができる(ただし被告が訴訟救助を受けているときはこの限りでない(75条,83条))。なお,諸外国では,巨額になりがちな訴訟費用のリスクに対応するため,訴訟費用保険が利用されている。
(2)刑事訴訟において訴訟費用とは,〈刑事訴訟費用等に関する法律〉(1971公布)の定めるもの,すなわち(a)証人・鑑定人・通訳人・翻訳人の旅費・日当・宿泊費,(b)鑑定料・通訳料・翻訳料および鑑定・通訳・翻訳の費用,(c)国選弁護人が選定された場合のその旅費・日当・宿泊費・報酬である。裁判所は,貧困のため納付できないことが明らかな場合を除き,刑を言渡しをするときには,被告人に訴訟費用を負担させねばならず,刑の言渡しをしないときでも,被告人にその責により生じた費用を負担させることができる(刑事訴訟法181条)。
告訴等に基づき提起された公訴事件につき被告人が無罪または免訴となったときには,故意または重過失ある告訴人等に訴訟費用を負担させ,また検察官以外の者が上訴・再審・正式裁判の請求を取り下げたとき,その者に当該手続に関する費用を負担させることもできる(183条,184条)。
訴訟費用負担者が貧困のため完納できないときには,裁判所は,その申立てにより執行を免除することができる(500条)。訴訟費用の額が定められていないときは,検察官がこれを算定する(188条)。検察官の執行命令は債務名義の効力を有し,これに基づいて,民事執行法の規定に従い訴訟費用の取立てが執行される(490条。ただし,執行免除の申立てがあったときまたは申立て期間内は執行は停止される(483条))。
以上のように,刑事訴訟では,被告人自身の出頭費用(旅費,日当,宿泊費)は訴訟費用ではなく,私選弁護人の出頭費用および報酬もそれに含まれない。しかし,無罪判決が確定した場合,被告人であった者にこれらの費用を負担させるのは妥当でない。そこで,1976年の法改正によりこの者は,国に対し費用補償の請求をなすことができることとされた(188条の2以下参照)。
執筆者:山本 弘
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… 弁護士費用については日本弁護士連合会が一応の全国的基準を示しており,これをもとに各弁護士会が報酬規定を定めている。訴訟事件の報酬は依頼の際に支払う着手金と成功の程度に応じて支払う報酬金とからなる(なお〈訴訟費用〉の項参照)。 なお,訴訟において弁護士が果たす機能については〈訴訟代理人〉(民事の場合),〈弁護人〉(刑事の場合)の項を参照されたい。…
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