日本大百科全書(ニッポニカ) 「油脂化学」の意味・わかりやすい解説
油脂化学
ゆしかがく
chemistry of fat and oil
油脂の成分、化学的性状、化学反応などを探究する学問分野である。油脂は脂質として生体内に含有されているから、生体内での脂質の化学的探究も油脂化学の範疇(はんちゅう)に属する。
油脂の脂肪酸成分、脂肪酸構造、グリセリド構造、自動酸化、水素化、加水分解などの化学反応、生体内における脂質などは、油脂の従来の分析法である程度解明されていたが、近時における紫外および赤外分光光度法、核磁気共鳴分光法、電子スピン共鳴法、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなどの新しい測定技術の進歩により、格段に明細に解明されてきた。これに伴い、合成方面も進歩した。
たとえば、魚油中には高度不飽和脂肪酸が含まれているが、前記測定法の発達により、純粋な高度不飽和脂肪酸の自動酸化、水素化反応の詳細なことまで確かめられた。不飽和脂肪酸の自動酸化により、ヒドロペルオキシド(過酸化脂質)がまず生成されるが、その異性体を含めて明細にわたる構造が解明されるに至るとともに、高度不飽和脂肪酸の自動酸化の場合には、非常に不安定なジヒドロペルオキシドが生成することまで確かめられた。また水素化反応では、トランス異性体のような幾何異性体、共役二重結合のような位置異性体を生成する。トランス異性体の生成は好ましくないが、これを少なくすれば選択性が減少する。トランス異性体無生成で、選択性100%という新しい水素化反応系がみいだされた。また従来不均一系油脂加水分解反応は、油‐水界面反応といわれていたが、油層、水層における反応も関与することが確かめられた。
生体内でも脂質の自動酸化反応がおこり、アテローム性動脈硬化症血管、癌(がん)組織中に過酸化脂質が存在することがみいだされ、老化、生活習慣病(成人病)発生原因として過酸化脂質説が提出された。生体細胞膜にはリン脂質を含むが、タンパク質、糖脂質、糖タンパク質との関連もより明らかにされつつある。
[福住一雄]