原油とガスとが共存するのが常態である地層。これに対し,ガスだけが遊離して存在するのが常態である地層をガス層gas reservoirという。主要油層は地質時代的には第三紀と中生代に属するものが多い。中東の巨大油田の油層の多くは中生代に属するので,中生代の油層に埋蔵されている油が最も多く,とくにジュラ紀および下部白亜紀が重要である。一方,日本を含む東アジア,東南アジアの油層はすべて第三紀層である。この地域では中生代およびそれより古い時代の岩石は中生代末期の造山運動によって基盤岩化してしまって油層にはならない。また中東でもイラン-イラクの主要油層は第三紀層である。古生代の油層もアメリカ,旧ソ連,アルジェリア等で大油田を形成してはいるが,この時代の油層の埋蔵量は世界全体の10%以下である。
主要油層の地下賦存深度は1800~3000mであり,とくに4000m以深では大油層はまれである。これは地下深部では油がガス化してしまうためである。大深度の大ガス層として有名なのは,中東のイラン,カタル,アブ・ダビー,バーレーン等に分布するクフ層(古生代の二畳紀層)で,深度は4000~5000mである。
主要油層の岩質は砂岩と炭酸塩岩(とくに石灰岩)である。発見された油層の数からいうと,砂岩質油層が約60%,石灰岩質油層が約40%を占めるが,油層としての規模は平均して石灰岩質油層のほうが砂岩質油層よりもはるかに大きいので,埋蔵量的には両者に含まれている油量はほぼ等しい。その他の岩質の油層は世界的にはほとんど重要性をもっていないが,日本では新潟・秋田県下に分布するグリーンタフが生産能力の優れた油ガス層として注目されている。
油層のなかの油を集積する機構(トラップ)としておもなものは背斜構造である。世界中の油ガスの約90%は背斜トラップに賦存する。これは背斜構造が他の型のトラップよりも探鉱作業によって発見しやすいことにもよるが,背斜構造は最も効率的な集油機構であるためでもある。
油層岩(貯留岩。図)の性状の良否を左右する物性は数多く挙げることができるが,おもなものとして孔隙率,浸透率および飽和率がある。孔隙率は,油層流体が含有される岩石中の空間部分の,油層岩全容積に対する比率で示される。だいたいの基準としては,孔隙率30%以上の油層岩は良質,30~15%の範囲が普通,15%以下の場合は貧弱な油層岩である。浸透率とは,孔隙の内部を流体が流動する際の,通過しやすさの程度をいう。長さ1cm,断面積1cm2の岩石の両端に1気圧の圧力差をかけたとき,粘度1センチポアズ(cP)の流体が毎秒1cm3の流量で流れるとき,この岩石の浸透率を1ダルシー(darcy,記号d)と定義し,その1/1000を1ミリダルシー(md)とする。だいたいの基準としては,浸透率が1d以上の油層はごく良質,1d~100mdの場合はかなり良質,100~10mdの場合は普通,10md以下の場合は貧弱な油層である。飽和率とは,岩石の孔隙内に満たされている油,ガス,水の孔隙容積に対する比率である。油層といってもガスまたは水を随伴するのが普通であるが,水の飽和率がある程度高くなると,油は産出せずに水ばかり産出する場合が多い。だいたいの基準としては,油飽和率が70%以上(したがって水が30%以下)の油層は油のみを産出し,70~40%の場合は油と水の双方を産出するケースが多く,40%以下の場合は主として水を産出し,多少の油を随伴する程度であることが多い。
油層流体とは石油鉱床内の流体の総称で,原油,コンデンセート,ガスおよび水(塩水)である。油層流体は油層圧を受けており,深度による圧力勾配はだいたい10m当り1kg/cm2という静水圧下にある場合が多い。しかし油層圧がその深度の静水圧よりも著しく高い場合があり,これを異常高圧層という。異常低圧層のケースはごく少ない。
原油は主として液体炭化水素から成り,化学構造的にはパラフィン系,オレフィン系,ナフテン系および芳香族系の炭化水素を基本型とする。同じ分子量であっても異性体が数多く存在し,全体としての化合物の種類は2000種をはるかに超えている。一般に重質原油ほど,硫黄,酸素,窒素化合物等の不純物を多く含有する。その他ニッケル,バナジウムのようにポルフィリン化合物の錯酸をなすものもある。また軽質の炭化水素(C10くらいまで)を相当量含有し,油層圧,油層温度ともかなり高い鉱床では,地下においてはガス体であるが,地上へ採り出されると圧力降下に伴って逆行(レトログレード)現象が起こり,ガス体が凝縮して軽質油となるものがある。この種の液体をガス・コンデンセートという。
天然ガスには水溶性ガス,遊離性ガス(構造性ガス),油溶性ガスおよびキャップガスがある。水溶性ガスは,メタン生成バクテリア等によって生化学的に生成されたガスが被圧地下水中に溶解したものである。遊離性ガスは,有機物の熟成過程に伴って生成されたガス体の炭化水素が,水に溶解して上方へ移動するとともに,圧力降下に伴ってガスが分離して気泡を形成し,気泡がしだいに合体して十分な連続相となりトラップに集積したものである。油層中の原油は通常ガスを溶解しており,これが油溶性ガス(溶解ガス)で,ガス油比は油層の性質によってさまざまである。しかしガスの油に対する溶解度には限度があるので,ガスが油のなかで飽和してしまうと,余ったガスは油層の上方にガス層を形成する。これがキャップガスである。
油層解析は,油層中の油,ガスの流動について解明し,油層の実態を把握して,経済的,技術的に最も効率の良い油の回収を行うことを目的とする。油層解析における重要な分野は,油層圧力と油層内流動に関するものである。油層圧力には生産前の初期圧力と生産後の圧力とがある。油層圧力は生産が進むとともに減少するのが普通であり,定期的な測定を行う。地下の油層から採収した油,ガスおよび水の量もそれぞれ定期的に測定しておけば,物質収支(マテリアルバランス)計算によって,最初に地下にあった流体の量を求めることができる。しかし油層内の物理的条件はきわめて複雑であるので,油層工学においては数多くの非線形の偏微分方程式を解くことが必要になる。最近における大型コンピューターの発達によって,複雑な油層シミュレーションを行うことができるようになった。
油層シミュレーションには一次元,二次元,三次元のモデルがあるが,油層の規模,性質,油層流体の性状に応じて特定のモデルが選ばれたら,油層を数多くのセルに分割する。そして各セル単位に,ここに入った油量と出て行った油量を計算して,セル内における油の体積変化を計算する。油層シミュレーションの主要目的は種々の油層開発法における油の採収レートを予測し,そのなかで最適な生産計画を策定することであるが,そのための第一歩は,入手しうる最良のデータを用いて油層の挙動を計算し,この計算結果と実際の生産結果とを比較する。これをヒストリー・マッチングといい,良いマッチング結果が得られるまで種々のデータを変えることによって計算を繰り返す。これによって最も適切なモデルが確認されたら,これを使って分割された期間(タイム・ステップ)ごとに将来の生産予測を行う。シミュレーションを行うのに必要なコンピューターの計算時間は,油層のセルの数と期間の分割数とに関係し,セルの数が増加すれば当然それだけ計算時間も増加するが,それと同時に,セルの容積が減少することにより期間分割数を小さくして,適当な計算時間におさえるようなくふうを行う。
執筆者:加藤 正和
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
原油を埋蔵している地下の貯留層をいう。油層の多くは
に示すような馬の鞍(くら)の形をした背斜構造中にある。油は背斜構造の頂部に存在し、高い圧力の下で天然ガスを溶解している。このガスを溶解ガスという。油層の周囲には油田水がある。これを端水(はすい)という。油田水は油層の油の存在する所にもある。これを間隙水(かんげきすい)という。油層によっては のように、頂部に遊離した天然ガスが存在することがある。この部分をガスキャップという。地下で生成した油は石油根源岩より移動し、背斜構造の頂部に集積し油層を形成するが、油層の上に堆積(たいせき)しているキャップロックあるいは帽岩とよばれる不浸透性の地層により、地表へ流出することなく数百万年以上の長い間地下に保存されている。油層の岩石は砂岩、石灰岩、凝灰岩などよりなり、岩石粒子の間隙に油が存在している。中東の大油田では石灰岩の油層から産油している例が多い。油層岩石の浸透性は油層の重要な性質である。浸透性とは流体が岩石中を流れるときの流れやすさを示す尺度である。岩石の浸透性は浸透率という係数で表され、単位はダルシーである。一般にはダルシーの1000分の1のミリダルシーを用いている。多くの油層の浸透率は数十から数百ミリダルシーであるが、中東の大油田は数ダルシー以上の油層をもつ。大油田になるには、油層規模が大きいほかに浸透率の高いことも条件の一つである。油層深度は数十メートルから5000メートル以上に及び、深度はしだいに深くなる傾向にある。[田中正三]
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