日本大百科全書(ニッポニカ)「泥棒日記」の解説
泥棒日記
どろぼうにっき
Journal du voleur
フランスの作家ジャン・ジュネの自伝的長編小説。1949年刊。流浪の旅を続けてきた作者はスペインにたどり着き、一匹のシラミのようにバルセロナの貧民街に住み着く。乞食(こじき)をしながら男娼(だんしょう)となり、かっぱらいとなり、やがて泥棒に仲間入りする。ベルギー、イタリアなど諸国を放浪してフランスへ帰る。日記とはいうが日付はなく、年代も追わず、過去と現在が交錯する話法で終始する。右手のない美男スティリターノなど、作中のやくざ連中はすべて高貴な聖徒として描かれ、汚辱を美に転換し聖化して自己を救済する過程が語られていて、ジュネの才能が純粋に結実した希有(けう)な生活体験の漂泊記録である。
[曽根元吉]
『朝吹三吉訳『泥棒日記』(新潮文庫)』
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