シラミ(読み)しらみ(英語表記)sucking lice

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シラミ」の意味・わかりやすい解説

シラミ
しらみ / 虱

sucking lice

昆虫綱シラミ目Anopluraの昆虫の総称。哺乳(ほにゅう)類に外部寄生する吸血性の虫で、有翅(ゆうし)昆虫類に属しながら無翅で、変態もほとんどしない。ヒト家畜に寄生し、吸血する害虫であるばかりでなく、各種の伝染病も媒介するので、医学的にも獣医学的にも注目される。ハジラミ類に近縁の昆虫類である。

[山崎柄根]

形態

おおむね扁平(へんぺい)な虫で、頭部は小さく、胸部と腹部は幅広くなり、長楕円(ちょうだえん)形である。外部寄生で、とくに毛をつかんで生活するため、3対の肢(あし)は体に似合わずきわめて太く、先端は把持(はじ)器となる。

 頭部は小円状ないしやや円錐(えんすい)状。先端部は突出した口吻(こうふん)吸部となり、その下面の両側と中央に小歯状の突起があり、吸血時に固着する部分となる。口器は吸血するため著しく変形して、3本の針状のものとなり、舌の変形した舌針(ぜっしん)、唾腺(だせん)開口部が変化した唾腺針、下唇の一部の変形した下唇針とからなる。触角は3~5節で、短いながら太く、シラミにとって重要な感覚器官として発達しているが、複眼は退化しており、目として認められるのはヒトジラミを含めて5属のみである。単眼はない。胸部の3節は癒合し、腹部は9節が認められる。腹部には剛毛横列があり、末端に近い節には側縁に長剛毛がみられる。腹部末端の形状は雌雄ではっきりと異なっている。肢の跗節(ふせつ)は1節しかなく、鋭くとがっており、しばしば脛節(けいせつ)先端も鋭くとがり、把持器として完成する。

[山崎柄根]

生態

単孔類、貧歯類、翼手類、クジラ類を除く哺乳動物に寄生し、吸血して生活する。卵生で、卵は寄主の体毛の根元近くに分泌物で膠着(こうちゃく)させる。卵は成熟卵で、幼虫はすぐに孵化(ふか)してくる。3、4齢を経て成虫となるが、幼虫、成虫ともほぼ同形。年間を通じてみられ、成虫の寿命は1~1.5か月。この間、雌雄ともよく吸血し、交尾して産卵し続ける。卵からかえった雌が産卵するまでの期間は、条件がよいと約20日である。寄主との関係は厳密で、異なる動物の血液を好まない。消化管内に共生微生物を宿し、これがないと栄養物をよく消化できない。ヒトジラミの場合、腹面からみると、消化管の中央に黄白色の盤状のものが付属しているが、これが微生物を含む細胞の集合体で、小菌体とよばれる。目の退化傾向から推測されるように、一般に光を嫌い、負の走光性を示す。

[山崎柄根]

分類

シラミ類は世界で300種ほどが知られ、そのうち日本からは約40種が記録されている。6科に分けられ、アザラシなど海獣類につくカイジュウジラミ科、中・大形の獣類につくケモノジラミ科、おおむね小動物につくケモノヒメジラミ科、中・大形獣類につくケモノホソジラミ科、アフリカ産の食虫類につくヤワケモノジラミ科、および霊長類につくヒトジラミ科である。比較的普通にみられるものはケモノジラミ科のブタ、ウシ、ウマにそれぞれ寄生するブタジラミHematopinus suisウシジラミH. eurysternusウマジラミH. asini、ヒトジラミ科のケジラミPhthirius pubisとヒトジラミPediculus humanusなどである。

 ケジラミはヒトの陰毛につく。ヒトジラミはさらに、付着部位によって亜種が分かれ、頭髪につくアタマジラミPediculus humanus humanusと、衣服につく大形で色の淡いコロモジラミP. h. corporisの別があるが、同一種内の生理的品種として扱われることもある。

[山崎柄根]

人間との関係

シラミ類の多くが寄主を困らせるものであるが、ヒトにつく種の場合、いずれも刺されたときは非常に不快である。コロモジラミは発疹(はっしん)チフス、五日熱、回帰熱などを媒介する重要な衛生害虫である。とくに戦争時生活水準が悪化するとよくはびこり、日本でも太平洋戦争直後に蔓延(まんえん)したが、駆除剤のDDTによってほぼ根本的に駆除した歴史がある。それ以前は熱消毒などによる方法がもっぱらであったが、効果は少なかった。発疹チフスの病原体はリケッチアで、患者から吸血したシラミは、その消化管中でこのリケッチアを増殖させ、これを含む糞(ふん)をまき散らしたためか、虫体をつぶしたために、リケッチアが皮膚または粘膜を通して侵入し、次のヒトに感染する。ほかの伝染病の伝播(でんぱ)方法もほぼ同様である。なお、ヒトにつくシラミの伝播は集団生活する場で行われ、難民キャンプ、学校、通勤車内などがその例である。また、ケジラミの場合には、陰部の接触によって伝播する。

[山崎柄根]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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