江戸時代に、江戸・浅草山谷(さんや)付近で生産された雑用紙。故紙を原料とした漉(す)き返し紙で、普通は色が黒く、黒保(くろほう)とよばれて鼻紙や落し紙に広く使われた。また、漉き返す前に石灰水で蒸解し直したものは色が白く、白保(しろほう)と称して低級本の用紙にも使用された。佐藤信淵(のぶひろ)の『経済要録』(1827)に、「江戸近在の民は、抄(すき)返し紙を製すること、毎年十万両に及ぶ」とあるように、れっきとした製紙産業の一つであった。庶民の日常生活に欠かせないものであったため、江戸時代の川柳などにもよく出てくる。明治以後この地が繁華街となるにつれて、製紙業は周辺の地に分散移転したが、さらに洋式の機械製紙が地方で盛んになるにつれ、手漉きの零細業者はしだいに転廃業して跡を絶った。しかし浅草紙の名は、形や産地が変わってもなお長く庶民に親しまれている。
[町田誠之]
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