古紙を原料として製造した紙。通常古紙から再生パルプを回収し、再生パルプを中間原料として一部、または全量用いて抄紙(しょうし)する。紙の消費量はよく一国の文化のバロメーターであるといわれてきた。世界では2013年時点で、年間約4億0261万トン(1人当り56.5キログラム)、日本では約2624万トン(1人当り214.6キログラム)もの紙(洋紙)・板紙が消費されている。そのため約5億8700万立方メートルの木材が世界で消費され(2012)、また莫大(ばくだい)な古紙が発生しごみとなるため、地球規模での環境問題となっている。
[御田昭雄 2016年4月18日]
日本には古くから和紙があり、使用後もたいせつに回収され、漉(す)き返して再生紙として使われるとともに、障子紙や包装紙として利用され、ごみとして捨てられるようなことはなかった。明治になって洋紙が入ってきてからも、古紙は包装や果樹の袋掛けなどにそのまま利用されるほか、新聞古紙、古雑誌、古板紙、セメント袋などのクラフト古紙など種類別によく分類して回収する組織と習慣が育ち、下級紙や板紙等の原料として循環利用されてきた。すべての古紙を回収し、再生パルプにして紙を再生できれば、木材資源の節約と水およびエネルギーの節約にもなり、そのうえ莫大なごみの発生が押さえられるため、古紙の回収と紙の再生は国をあげて熱心に進められ、2014年(平成26)には回収率は80.8%に達した。この古紙の回収と再生利用が、国内パルプの生産量877万トン、パルプ輸入量178万トンの日本で、紙・板紙2624万トン(いずれも2013)の生産を可能にしている。
[御田昭雄 2016年4月18日]
紙には種類が多く、用途もきわめて多く、なかには書籍として図書館に永久保存されるものや、たばこの巻紙のように燃やすためにあるもの、石膏(せっこう)ボード原紙のように建材になるものなど回収不能なものもあり、回収率の極限値は85%程度と考えられている。回収率が極限値に近づくにしたがって古紙の回収は困難になる。また高い回収率で無理に集めた古紙には夾雑物(きょうざつぶつ)が増えやすく、再生パルプの原料としての価値は急激に低下する。現在の技術では紙、板紙の古紙から得られる再生パルプはバージンパルプに比べ品質、強度ともにかなり劣っている。都合のよいことに、紙の製造において強度の大きいパルプと小さいパルプを配合して抄紙すると、得られる紙の強度は一般に両者の平均値よりはるかに大きくなることと、現実には紙の回収率が100%よりかなり低いため、新しく外部からパルプが補充されるので強度が補われ、古紙の回収、パルプの再生、再生紙の利用というリサイクルを可能としている。古紙の一部を回収し、それから再生パルプをつくり、再生パルプを用いて下級板紙を製造することは技術的にかなり容易である。日本では紙、板紙の生産量のうち約半分(約40%)が板紙であるから、古紙の回収率40%ぐらいまでは古紙の収集、貯蔵、流通などの問題が中心で、これはおもに経済的な、あるいは行政による支援で解決することができた。しかし古紙の回収率を極限に近づけ、すべての紙を再生紙に切り換えるとなると技術的にもきわめて困難なことが続出する。板紙のほか新聞用紙も中質紙も上質紙も薄葉(うすよう)紙も、さらには特殊高級紙までも再生パルプを原料として製造しなければならなくなるだけに、問題はきわめて深刻になる。
上質の紙を木材パルプから製造する場合でも、パルプ中の夾雑物を精選除去することが重要である。さらに均質で薄い紙ほど原料パルプにも製造技術にも高度のものが要求される。したがって、さまざまな種類の古紙の集合体から均質で高級な再生パルプを得ることも、高品質の再生紙を抄造することも、きわめて困難になる。
[御田昭雄 2016年4月18日]
パルプの再生はよく分類された均質の古紙の回収に始まる。回収された古紙は離解装置を用いて水中で離解し単繊維状にする。次に、単繊維と夾雑物との形状の違い、比重の違い、磁性の違いなどにより、目の形や大きさの異なる篩(ふるい)や液体サイクロン、磁石等を使い、土砂や、製本に用いた金属、プラスチック類や離解されにくい紙片などを除去する。印刷古紙は離解され単繊維化しても印刷インキが容易に取れないので、印刷用紙には再生されなかった。しかし1970年(昭和45)ごろからパルプの懸濁液(けんだくえき)を高濃度に濃縮し、界面活性剤を加え高性能のニーダー(高濃度攪拌(かくはん)機)等で強制攪拌し、単繊維どうしに強い摩擦をおこさせてインキをはがし、浮上分離機によってインキを分離除去することにより、よく脱墨された再生パルプが得られるようになった。かつては新聞古紙などから再生されたパルプはほとんど脱墨できていなかったので板紙原料にしか利用できなかったが、このように精選と脱墨の技術が進むことによって、2014年時点では新聞古紙の紙向け消費率は64.2%に達し、新聞古紙や印刷古紙が新聞用紙や下級、中級印刷用紙等の製造に供されるようになった。
2014年における紙・板紙の古紙利用率は63.9%で、紙では40.3%、板紙では実に93.2%に達する。各種板紙の名前のなかには、木材パルプや麻パルプなどを原料としたことに由来するセミ中芯(なかしん)(本来は木材チップを原料としたセミケミカルパルプに由来する)、クラフトライナー(本来は木材チップを原料としたクラフトパルプに由来する)、さらにはマニラボールなどの名があるが、現在では再生パルプだけで製造されているものがほとんどで、名前だけが残っているのである。また古紙系のトイレットペーパーの製造においては、100%古紙利用も行われている。
[御田昭雄 2016年4月18日]
紙は長期保存することにより劣化する。新聞紙や更紙(ざらがみ)のように砕木パルプを含む下級紙は光線に当たっても、かなり短い月日でぼろぼろになる。化学パルプ100%でできている上質紙でも酸性の紙(酸性サイズを施したもの)は長年月の保存により劣化するので問題となっている。
再生紙では原料となる古紙の劣化と再生に伴う劣化がさらに重なる。都合のよいことに、元の古紙に比べ再生パルプの白色度は通常上昇する。これは空気中の酸素による漂白作用でもたらされるとされている。また意外なことに、砕木パルプを含む新聞古紙はパルプの再生に伴う劣化が少なく、再生パルプを配合した新聞用紙は不透明度があがるといわれている。これらは最近の新聞紙のように軽量化(紙を薄くすること)が進んでいる時代には有利なことである。上質古紙は再生により、元の紙に比べ強度低下は著しく、1回の再生で引張り強さなどは数分の1に低下するが、再生を2~3回繰り返すことにより強度低下の傾向は緩慢になるといわれている。上質紙用のパルプとして再生パルプを使うためには、脱墨がより完全に行えるような技術の開発が必要である。産業用紙の原料とするにはパルプ強度の改善が望まれる。紙の再生利用に伴うパルプ繊維の表面の角質化によりもたらされる再生紙の諸強度の低下を、アルカリ処理などにより回復する技術などの開発も進んでいる。一方、ポリアミドなど種々の紙力増強剤を開発し、紙の抄造の際に用いることも行われている。
[御田昭雄 2016年4月18日]
『神谷すみ子著『トイレットペーパーの話 再生紙使用が地球を救う』(1995・静岡新聞社)』▽『紙業タイムス社編・刊『古紙はなぜ余るのか 新・紙のリサイクルと再生紙』(1998)』▽『古紙再生促進センター編・刊『古紙再生促進センター会報』26巻5号(2000)』▽『日本製紙連合会編・刊『紙・パルプ産業の現状』(月刊『紙・パルプ』2001年特集号・2001)』▽『古紙再生促進センター編・刊『古紙ハンドブック 2000』(2001)』▽『岡田英三郎著『紙はよみがえる――日本文化と紙のリサイクル』(2005・雄山閣)』▽『紙業タイムス社編・刊『紙パルプ産業と環境2008 改めて古紙と再生紙を考える』(2008)』
出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…一方,中質紙,新聞用紙,トイレットペーパー,ティッシュなど白色度を要求する製品には,水洗法,フローテーション法で脱インキ処理を行い,場合によっては漂白も行って白色度を高くした古紙パルプを用いる。このような古紙パルプを用いてつくった紙は再生紙と呼ばれる。【臼田 誠人】。…
※「再生紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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