内科学 第10版 「消化管血管形成異常」の解説
消化管血管形成異常(腸疾患)
消化管の血管性病変は,消化管出血の原因として重要だが,分類や用語が統一されておらず,異なる用語が同じ病変に用いられることや,同じ用語が異なる病変に用いられることがあり,混乱している.いくつかある用語のうちangiodysplasiaが最も頻用されているが,定義があいまいなまま多様な血管性病変に用いられている.
分類
消化管の血管性病変(静脈瘤や血管腫は除く)を病理組織学的に分類すると,①静脈・毛細血管の特徴をもつ病変,②動脈の特徴をもつ病変,③動脈と静脈の間に吻合ないし移行がみられる病変の3つに分類される.①静脈・毛細血管の特徴をもつ病変狭義のangiodysplasiaだが,angioectasia,vascular ectasiaともよばれる.粘膜下層の正常静脈と,粘膜固有層の毛細血管の拡張からなる点状〜斑状の赤い病変で,薄い血管壁からなる内弾性板をもたない異常血管が蛇行している.②動脈の特徴をもつ病変Dieulafoy病変とよばれ,胃の病変として知られているが,小腸や大腸でもみられる.本来そこに存在しない異常に太い動脈が粘膜に近接して粘膜下層を蛇行し,粘膜の機械的圧迫などにより破綻して,微小な粘膜欠損から大出血する.③動脈と静脈の特徴をもつ病変arteriovenous malformation(AVM)とよばれ,比較的大型の動脈と静脈の間に吻合または移行部を有する病変で,粘膜下層にとどまらず漿膜面まで達する比較的大きな病変である.
疫学・原因
臨床的に問題となる症例は,高齢者に多い傾向があり,背景疾患として,肝疾患,腎疾患,心疾患(特に大動脈弁狭窄症との合併はHeyde症候群とよばれる)をもつことが多い. 原因は解明されていないが,静脈・毛細血管の特徴をもつ病変については,加齢に伴う退行性変性による前毛細血管括約筋の機能不全や,粘膜微小循環における慢性的な低酸素状態の関与などによる後天的変化と推測されている.
臨床症状
顕性の消化管出血で輸血まで要する例もあるが,慢性貧血のみで顕性出血を欠く例や,無症状で他疾患の検査中に偶然見つかる例もある.出血の部位と量によっては腹部不快感や吐き気を訴える場合がある.
診断
持続出血例では,造影CTか腹部血管造影での消化管内への造影剤漏出で部位を同定できることがある.しかし,大きな病変を除いて,最終診断・治療には内視鏡検査が必要で,病変部位に応じて上部・下部消化管内視鏡を用いるが,病変が小腸の場合にはカプセル内視鏡かバルーン内視鏡を用いる.血管性病変の内視鏡像は多様だが,血管性病変が疑われる病変は出血のリスクがあるため生検すべきではない.拍動性の有無から動脈成分の有無を判断し,治療方法を選択する. 小腸の血管性病変については,表8-5-25のような矢野・山本分類という内視鏡分類が普及しつつある.
治療
多くの場合は,内視鏡治療が有効である.動脈成分を有さない,静脈・毛細血管の特徴をもつ病変は,argon plasma coagulationなどの電気焼灼術で内視鏡治療される.Dieulafoy病変は,拍動性に多量の出血をきたすため,粘膜下の動脈を止血クリップで結紮して内視鏡治療する.AVMは,小さな病変であれば止血クリップで内視鏡治療できる場合もあるが,大きな病変では外科的切除や腹部血管造影下での塞栓術が選択される. 背景疾患をもつ例では同時多発,異時多発する場合があり,治療後も注意深い経過観察が必要である.[矢野智則]
■文献
岩下明徳,尾石樹泰,他:腸管の血管性病変 限局性腫瘍状病変を中心に 腸管の血管性病変の病理学的鑑別診断.胃と腸,35: 771-84, 2000.
Sucker C: The Heyde syndrome: proposal for a unifying concept explaining the association of aortic valve stenosis, gastrointestinal angiodysplasia and bleeding. Int J Cardiol, 115: 77-78, 2007.
矢野智則,山本博徳:手技の解説 小腸出血の内視鏡的止血.Gastroenterological Endoscopy, 52: 2730-2737, 2010.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報