淋菌感染症

内科学 第10版 「淋菌感染症」の解説

淋菌感染症(Gram 陰性球菌感染症)

(2)淋菌感染症(gonococcal infection)
病態
 淋菌(Neisseria gonorrhoeae)はナイセリア属に属するGram陰性双球菌で,性感染症(sexually transmitted infection:STI)の代表的な原因微生物の1つである.CO2要求性であるため,外気中では死滅しやすい.したがって,人から人への直接接触により感染する.男性では淋菌性尿道炎(gonococcal urethritis)を発症させるが,精管を介して精巣上体に及ぶと精巣上体炎(epididymitis)を併発する.女性では淋菌性子宮頸管炎(gonococcal cervicitis)を発症させるが,さらに卵管から腹腔に到達し腹膜炎となることがある.これを骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)という.淋菌が結膜に感染すると淋菌性結膜炎(gonococcal conjunctivitis)となる.淋菌感染症の妊婦からの産道感染により新生児に引き起こすが,妊婦検診が普及した現在ではまずない.最近では成人での報告例が散見される.さらに近年,性行動の多様化により咽頭や直腸感染例も増加している.淋菌とともに性感染症の代表的なクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)が約30%の頻度で同時に感染する.
臨床症状
 男性の尿道炎では尿道からの膿性分泌物と強い排尿痛がある.潜伏期は2~7日である.精巣上体炎では精巣上体の有痛性腫脹があり,発熱を伴うこともある.女性の子宮頸管炎では帯下の増加がおもな症状であるが,軽微であり自覚しないことが多い.しかし,骨盤内炎症性疾患では強い下腹部痛と発熱がある.結膜炎は感染後12~48時間で発症し,重篤な眼瞼浮腫に続く結膜浮腫と多量の膿性滲出物がある.咽頭あるいは直腸感染は通常無症状である.
診断
 淋菌の同定が最も重要である.表4-5-2に感染部位別の検体と同定法を示す.分泌物のGram染色は1000倍の光顕下で好中球の胞体内に淋菌を認めるもので,迅速診断法として有用であるが,尿道炎と結膜炎以外にはできない.培養法は淋菌の同定とともに薬剤感受性試験が可能であるが,淋菌が検査室への輸送中死滅する可能性があり,偽陰性となる可能性がある.検査結果を得るのにも3~4日間かかる.核酸増幅法にはTaqMan polymerase chain reaction(TaqMan PCR)法,strand displacement amplification(SDA)法,transcription mediated amplification(TMA)法の3法がある.これらは培養法より鋭敏であること,同一検体から淋菌とC. trachomatisを同時に検出できること,結果を得るまでの期間が培養法より短いことなどの利点がある.ただし,咽頭における淋菌の検出には,SDA法とTMA法では咽頭擦過検体,TaqMan PCR法ではうがい液が用いられる.
治療・予後
 多くの淋菌は従来使用されてきたペニシリン系,セフェム系,そしてフルオロキノロン系の経口抗菌薬に耐性である.したがって,現在では注射薬であるセフトリアキソン(静注用セフェム系抗菌薬),セフォジジム(静注用セフェム系抗菌薬),そしてスペクチノマイシン(筋注用アミノグリコシド系抗菌薬)の3剤のみが推奨されている.尿道炎,子宮頸管炎,結膜炎に対してはこれら注射用抗菌薬の単回投与で1週間以内に治癒するが,骨盤内炎症性疾患,精巣上体炎に対しては追加投与が必要である.また,咽頭感染に対してはセフトリアキソンのみが単回投与で有効である. 淋菌の消失と臨床症状の改善をもって治癒と判定する.淋菌の消失を治療後早期に核酸増幅法で確認しようとすると,淋菌の死菌に検査キットが反応して偽陽性となることがあるので,症状消失後2週間以降に核酸増幅法による淋菌消失の確認を行うことが望ましい.[清田 浩]
■文献
日本性感染症学会編:性感染症 診断・治療ガイドライン2011―淋菌. 日性感染症誌,22 (1) supplement: 52-59, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「淋菌感染症」の解説

淋菌感染症
りんきんかんせんしょう
Gonococcal infections
(感染症)

どんな感染症か

 淋菌感染症は性感染症のなかでも頻度の高いもので、男性では尿道炎(にょうどうえん)精巣上体炎(せいそうじょうたいえん)、女性では子宮頸管炎(しきゅうけいかんえん)などを発症します。

 1960年前後から登場したペニシリン系の抗菌薬により淋菌感染症の治療は容易になったものの、1976年にはペニシリンを加水分解するペニシリナーゼ産生淋菌(ペニシリンが効かない)の出現が初めて報告されました。そののちテトラサイクリン耐性(たいせい)淋菌、ニューキノロン耐性淋菌も次々に現れ、近年では多くの抗菌薬に耐性をもつ(薬が効かない)淋菌による感染症が問題となっています。

症状の現れ方

 男性の淋菌性尿道炎の場合、潜伏期間は1週間以内で、典型的な症状は尿道痛、排尿痛、亀頭部(きとうぶ)の発赤、尿道口からの膿性分泌物などです。女性の症状は男性よりも軽く、腟分泌物が多少増加するという程度の場合も少なくありません。

検査と診断

 病原体の特定は、PCR法、TMA法、SDA法などの遺伝子診断法が感度、特異性ともにすぐれています。遺伝子診断法は淋菌とクラミジアを同じ検体で検出でき、さらに男性の尿道炎では初尿を検体に用いることもできます。

治療の方法

 淋菌に対してはかつてはニューキノロン系抗菌薬が有効でしたが、日本ではこの薬に対する耐性をもつ頻度が約80%とされ、現在は使用できません。現在有効と考えられているのはスペクチノマイシンの筋肉注射、セフォジジムの静脈注射、セフトリアキソンの静脈注射など数種類しかありません。

 また、口腔咽頭の淋菌感染症が増加していますが、この場合はスペクチノマイシンも無効といわれています。

病気に気づいたらどうする

 症状から淋菌感染症が疑われる場合は泌尿器科・婦人科を受診してください。簡単な検査で診断できます。診断された場合はパートナーの治療も併せて行う必要があります。オーラルセックスのみでも感染するので、可能性があるパートナーの十分な検査・治療が必要です。

 前述のように治りにくくなっていることを頭に入れ、予防することの重要性を認識し、正確な知識をもつこととコンドームの使用が重要です。

國島 康晴, 塚本 泰司

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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