改訂新版 世界大百科事典 「為替差益差損」の意味・わかりやすい解説
為替差益・差損 (かわせさえきさそん)
外貨建てでネットの債権もしくは債務をもっている場合,為替相場の変動によって自国通貨建てで生じる利益を為替差益,またその損失を為替差損という。たとえば,日本の輸出業者がドル建てで輸出契約を行うと,現実に貨物を輸出しその代金を受け取るまでの間,ドル建債権をもつことになる。この場合,たとえば1ドル=230円で採算が合うという前提で輸出契約を結んだとしても,輸出代金を受け取るときに為替相場が変動して1ドル=210円になると,そのドル建債権について1ドル当り20円の為替差損が生じる。逆に,為替相場が1ドル=240円になると1ドル当り10円の為替差益が生じることになる。このような為替差益・差損は,輸出入などの経常的な対外取引だけでなく,資本取引でも生じる。たとえば,日本の企業が国内の設備投資資金を調達するために外貨を期間5年で借り入れ,これを借入時の為替相場で円に換算して使ったものとする。5年後の返済時に為替相場が変化していると,そこに為替差益ないし差損が生じることになる。一般に,輸出入取引などから生じる短期の外貨建債権・債務については,こうした為替相場の変動に伴う為替リスク(とくに為替差損)を回避し,自国通貨建てで採算を確定するためには先物予約(将来の一定時点で行う外国為替売買の契約)が行われる。しかし,1年を超える先物予約は通常,なかなか困難なので,外貨建債権をもつものは外貨借入れを行うとか,外貨建債務を負うものは外貨建債権(たとえば外貨証券への投資)をもつことによって,そのリスクを回避する。
→為替ヘッジ
執筆者:河西 宏之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報