改訂新版 世界大百科事典 「無機化学工業」の意味・わかりやすい解説
無機化学工業 (むきかがくこうぎょう)
化学工業の一分野。化学工業を大別すると素材型化学品部門と加工型化学品部門に分けられる。無機化学工業は素材型化学品部門に含まれる。具体的にはソーダ,電炉製品,無機顔料,圧縮ガス・液化ガス,塩などの製造業が含まれる。無機化学工業の中核を占めるのはソーダ工業と無機顔料製造業である。ソーダ工業の歴史は古く,日本では1880年に大蔵省印刷局が紙幣や公債証書などの印刷に用いる洋紙製造のために苛性ソーダを生産したことに始まる。無機化学工業も他の化学工業と同様,昭和30年代の高度成長期に急激な成長・拡大を示したが,昭和40年代後半に至って苛性ソーダの製法である水銀法が重金属汚染を招くとして,環境保全の見地から製法の転換を求められた。そして昭和50年代初めまでに隔膜法への転換が行われたが,この間に石油危機にみまわれ,供給過剰体制であったことも相まって深刻な構造不況に陥り,現在に至っている。ソーダ工業はソーダ灰,苛性ソーダ,塩素などの無機化学品を生産する基礎的部門で,これらの無機化学品はセッケン,紙,化学繊維,塩化ビニルなどのほか,アルミニウム,ガラス,鉄鋼,石油精製などの産業で用いられている。無機化学工業の規模を《工業統計表》でみると,出荷額が1兆5038億円で化学工業全体の6.4%を占めている(1995)。
執筆者:古矢 真義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報