版面権(読み)はんめんけん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「版面権」の意味・わかりやすい解説

版面権
はんめんけん

出版者保護のための「版の権利、版面の権利」をかりに「版面権」といっている。現行著作権法は1971年(昭和46)に施行された。その法案の審議過程で出版者団体は当時の文部大臣・文化庁長官などに対して要望書・意見書を提出して、「版の権利」の明定を期待した。また、85年に出版関係諸団体がこぞって文化庁長官あて要望書を提出、出版者の創出にかかる版の利用、つまり著作物などを出版物から複写する場合の組版面edition, typographical arrangement使用についての出版者の許諾権などの必要性を、緊急なこととして訴えた。版面の法的保護については、古く1955年に「不正複写防止法案」として社団法人日本著作権協議会が提唱したが、当時は復刻版を想定したものであった。しかしその後、複写による複製を容易にする機器の急速な開発普及によって「著作権の制限」を超えた著作物の無断使用による違法行為が日常化した。この場合、著作権の侵害は出版物の組版面を利用して行われる。とりわけ複写的利用頻度の高い学術書誌および実用記事などの無断使用による出版者への経済的影響も顕著とされ、学術出版企業などの存立にかかわる。そのため文化庁は86年に著作権審議会に小委員会を設け、「出版者の保護の必要性」について検討を進めてきた(同審議会は2001年1月以降、文部科学省に新設された文化審議会の著作権分科会に引き継がれている)。

 組版面にかかわる出版者独自の権利を法定するとすれば、おおむね著作隣接権的権利といわれるが、その権利を著作権とするか著作隣接権とすべきか、あるいは、それらに類する第三の権利と考えるかについては、機器開発の急速な進展に伴う出版態様の変化などをも勘案しつつ想定されることが望ましい。出版者の権利は、将来にわたって討議され続けることとなろう。録音録画などの無断複製との異同およびその法定された権利との整合性についても、さらに研究されなければならない。

[豊田きいち]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android