実演家、レコード(蓄音機用音盤、録音テープ、CDその他のものに音を固定したもの)の製作者および放送事業者の3者が著作物を利用する際に認められる権利の総称。略して隣接権ともいう。
[半田正夫]
実演家、レコード製作者および放送事業者は、通常、既存の著作物を利用し、これを一般公衆に伝達する役目を担うものであって著作権に関連するところ大であるが、自ら著作物を創作する者ではないから著作者とみることはできず、したがって著作権で保護することはできない。しかし、複製技術の発達により、これらの者の経済的利益の保護を図るべきであるとの要請が生じ、1961年10月ローマで39か国が集まって外交会議が開かれ、「実演家、レコード製作者および放送事業者の保護に関する国際条約」International Convention for the Protection of Performers, Producers of Phonograms and Broadcasting Organizations(一般に隣接権条約または実演家等保護条約という)が成立するに至った。
日本は、この条約の線にあわせ、著作権法(昭和45年法律第48号)において「著作隣接権」に関する規定をしている。現行著作権法では、実演家に実演の録音・録画権、放送権、有線放送権、送信可能化権、貸与権を、レコード製作者にはレコードの複製権、送信可能化権、貸与権を、放送事業者には放送の複製権、再放送権、有線放送権、送信可能化権、テレビジョン放送の伝達権を、さらに有線放送事業者に有線放送の複製権、放送権、再有線放送権、送信可能化権、有線テレビジョン放送の伝達権を、それぞれ認め、そのほか実演家とレコード製作者に商業用レコードの二次使用料請求権、商業用レコードの貸与に関する報酬請求権、私的録音録画補償金請求権を認めている。なお、隣接権条約に、日本は1989年(平成1)10月に加入した。
[半田正夫]
デジタル技術の発達と通信技術の進展により、多様な情報がデジタルデータとしてコンピュータに取り込まれ、インターネット等のデジタルネットワークによってこれらを双方向に配信することが可能となった。そのため、従来の実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者を各権利者とする著作隣接権制度にもさまざまな問題が生じている。
まず、実演家の権利については、1997年(平成9)の著作権法改正により送信可能化権(著作権法92条の2)の付与による対応がなされた。この点、実演家等が所属する複数の団体では、二次利用の際の煩雑な権利処理問題を解消すべく、著作隣接権の集中処理を担う法人を設立した(2009年4月)。なお、2010年1月1日から施行された改正法では、過去の放送番組等をインターネットで二次利用する際などに問題となる出演者(実演家)等の所在不明等の場合に備えて、著作権者について設けられていた裁定制度と同様の制度を、著作隣接権者の不明等の場合についても創設することとされた(同法103条)。
次に、レコード製作者の権利についても、1997年の著作権法改正により送信可能化権(同法96条の2)が付与されているが、放送については商業用レコードの二次使用料請求権しか認められていない。この点、2006年度の著作権法改正により、一定のIPマルチキャスト放送(送信可能化権が働きうる)に関してはレコード製作者の許諾は不要(ただし相当額の補償金の支払いは必要)とされた。しかし同じ「映像を送信する」という行為でも、それが「自動公衆送信」か「放送・有線放送」であるかは、レコード製作者にとっても許諾権を行使できるか否かという大きな違いとして表れるため、通信と放送・有線放送のあり方が再検討される余地がある。
そして、放送事業者(有線放送事業者)の権利についても、2002年度の著作権法の改正により、送信可能化権が付与されるに至っている(同法第99条の2・第100条の4)。なお、デジタルネットワーク化により、デジタル録音・録画機器やサーバー等を用いて放送番組等の録画転送サービス等を行う事業者が、放送事業者から複製権侵害等を理由に差止請求等を受ける事件が生じているが(ロクラク事件等)、デジタル技術革新等による適法なユーザーの利便性にも配慮する必要があり、個々のサービス内容や複製等の行為主体を慎重に判断することが求められている。
また、デジタルネットワーク化によって、悪質な事業者のみならず一般ユーザーもインターネット上で各著作隣接権者の有する送信可能化権等を侵害する事例が後を絶たないため、著作隣接権団体等では、個別に警告文を送付するなどにより、著作隣接権の認知度向上のための啓蒙(けいもう)活動も進めている。
[高田伸一]
『クロード・コロンベ著、宮沢溥明訳『著作権と隣接権』(1990・第一書房)』▽『佐藤雅人著『音楽ビジネス著作権入門――はじめて学ぶ人にもわかる権利の仕組み』(2008・ダイヤモンド社)』▽『半田正夫著『著作権法概説』第14版(2009・法学書院)』▽『紋谷暢男編『JASRAC概論――音楽著作権の法と管理』(2009・日本評論社)』
実演,レコード,放送,有線放送は,著作物の伝達手段であるが,これらは無断の複製等から守られるべき価値があるとして,著作物に準じて,著作権法によって,保護されている。この実演家,レコード製作者,放送事業者,有線放送事業者に与えられた権利が著作隣接権である(著作権法89条~104条)。著作権に隣りあったという意味で著作隣接権(neighbouring rights)といい,日本では1970年著作権法改正で創設された(実演とレコードについては,旧法下でもある程度保護されていた)。これは,1961年ローマで作成された〈実演家,レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約〉(実演家等保護条約,隣接権条約,ローマ条約とも呼ばれる)を取り入れたもので,この条約はユネスコ,国際労働機関(ILO),ベルヌ同盟の3者が作成した。日本は,著作権法にはこの著作隣接権を取り入れていたが,実演家等保護条約へ加入したのは1989年で,同年10月26日発効した。
著作権法の定める著作隣接権の内容は次の通り。著作権同様,無方式主義である。人格権は規定されていない。保護期間は,いずれも行為時から50年間。これらの権利は,著作者の権利に影響を及ぼさない。
実演家は,実演の録音,録画,放送,有線放送について許諾権をもつ。また送信可能化権をもつ。商業用レコードについて2次使用料を受ける権利をもつ。商業用レコードの公衆への貸与について1年間貸与権をもち,期間経過後は,報酬請求権をもつ。
レコード製作者は,そのレコードの複製について許諾権をもつ。送信可能化権をもつ。商業用レコードについて2次使用料を受ける権利をもつ。商業用レコードの公衆への貸与について1年間貸与権をもち,期間経過後は,報酬請求権をもつ。
放送事業者は,その放送またはこれを受信して行う有線放送を受信して,その放送に係る音または影像を録音し,録画し,または写真的複製について許諾権をもつ。テレビジョン放送を影像拡大装置を用いて公に伝達するについて許諾権をもつ。
有線放送事業者は,その有線放送を受信して,その有線放送に係る音または影像を録音し,録画し,または写真的複製について許諾権をもつ。
執筆者:大家 重夫
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(桜井勉 日本産業研究所代表 / 2007年)
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[電子情報の著作権制度]
著作権制度は,文化の発展に寄与することを目的とする知的所有権制度である。この目的を達成する手段として,著作者に著作者人格権と狭義の著作権を与え,著作物を公衆に伝える役割をもつ俳優・歌手・演奏者等の実演家,レコード(音楽用CDの原盤)製作者および放送事業者等に著作隣接権を与える。 日本の著作権法は,著作物を〈思想または感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術または音楽の範囲に属するもの〉(2条1項1号)と定義している。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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