家庭医学館 「癒着性中耳炎」の解説
ゆちゃくせいちゅうじえん【癒着性中耳炎 Adhesive 0titis Media】
難治性滲出性中耳炎(なんちせいしんしゅつせいちゅうじえん)(「滲出性中耳炎(中耳カタル)」)が治療されないまま長期間経過すると、中耳内の陰圧(いんあつ)が続いて鼓膜(こまく)が鼓室(こしつ)の裏側と接着し、そのうちに癒着(ゆちゃく)がおこります。
この状態が癒着性中耳炎で、癒着が長期間続くほど難聴(なんちょう)がひどくなります。
[検査と診断]
鼓膜の観察、聴力(ちょうりょく)検査を行なうほか、CTで癒着の程度、耳小骨(じしょうこつ)の破壊の程度、障害の程度を調べます。
この検査結果から、5段階に分類され、段階によって治療法が異なります。
①接着期
顕微鏡(けんびきょう)で鼓膜を観察し、鼓膜切開(こまくせっかい)を行なって鼓膜を吸引すると、鼓室から鼓膜をもち上げることができます。
●治療
鼓膜チューブを長期間留置(りゅうち)すれば、陥凹(かんおう)した鼓膜が正常な位置にまで戻ることが多いのですが、治るまで年単位の期間が必要です。
②癒着初期
一度癒着がおこってしまうと、鼓膜を正常な位置に戻すことはできません。
●治療
聴力が正常であれば、とくに治療をせず、経過を観察します。
滲出性中耳炎をともなう場合は、さらに悪化しないように鼓膜チューブ留置を継続します。
耳小骨が破壊されないようにすることがたいせつです。とくにかぜをひいた後は、滲出性中耳炎が必ずおこるので、鼓膜チューブ留置と耳管通気療法(じかんつうきりょうほう)(コラム「通気療法のいろいろ」)を併用します。
③癒着中期(耳小骨離断(じしょうこつりだん))
鼓膜が癒着してさらに長期間が経過すると、耳小骨(きぬた骨長脚(こつちょうきゃく)とあぶみ骨(こつ))が破壊され、中等度の伝音難聴(でんおんなんちょう)(「伝音難聴と感音難聴」)がおこります。
●治療
入院して、癒着した鼓膜を剥離挙上(はくりきょじょう)するとともに耳小骨連鎖(じしょうこつれんさ)の再建を行なう聴力改善手術が必要です。
④癒着後期(内耳障害)
さらに長期間が経過すると、中耳の炎症が内耳にも波及し、混合難聴(こんごうなんちょう)(「伝音難聴と感音難聴」)がおこってきます。
●治療
耳小骨の離断が明らかであれば(伝音難聴成分が大きい)、鼓室形成術(こしつけいせいじゅつ)が必要になります。
⑤癒着末期(聾(ろう))
聾(普通の会話の10倍以上の音が聞こえない高度難聴)になると、鼓室形成術による聴力改善の望みはありません。左右両方が聾になった場合は人工内耳(じんこうないじ)手術(コラム「人工内耳」)が必要になります。