外耳道のもっとも奥にあるほぼ円形の膜で、大きさは長径が約9ミリメートル、短径が約8.5ミリメートル、厚さは0.1ミリメートルの薄い膜である。中央がややへこんだコーン状で、外耳道に上方から下方へ斜めに張っている。鼓膜の内側は空気の入った鼓室(中耳腔(くう))で、耳小骨連鎖のもっとも外側の骨であるツチ骨が鼓膜の裏側についている。外耳道から入ってきた音波はコーン状の鼓膜で効果的に受け取られ、鼓膜が振動する。この振動がツチ骨、さらに耳小骨連鎖を経て内耳に伝わり、そこで蝸牛(かぎゅう)神経を興奮させ、最終的に大脳の聴野を刺激して音として感じ取ることができる。
鼓膜は非常に薄いので、耳の平手打ち、爆風、あるいは潜水などによる気圧変化、中耳炎で鼓室に膿(のう)が貯留するなどの原因で簡単に破れることがあり、これを鼓膜穿孔(せんこう)という。穿孔が新鮮な場合は比較的治癒しやすいが、穿孔が残ると難聴となるし、外耳道から汚染して中耳炎をおこしやすくなる。
[河村正三]
両生類以上の脊椎(せきつい)動物と昆虫にある音受容器の一部。脊椎動物では中耳の入口に張っている弾力に富んだ薄い膜で、音波を受けて振動する。振動は、両生類、爬虫(はちゅう)類、鳥類では、魚類の舌顎(ぜつがく)軟骨に由来する耳小柱(じしょうちゅう)に伝えられる。耳小柱の振動は、内耳の膜迷路に伝わり、膜迷路の内部にある感覚細胞を興奮させる。哺乳(ほにゅう)類では、鼓膜の振動は、爬虫類の関節骨由来のツチ骨(槌骨)、方骨由来のキヌタ骨(砧骨)、耳小柱が縮小変形したアブミ骨(鐙骨)の順に伝えられる。
昆虫の音受容器は鼓膜器官といい、気管膨大部の表皮が薄膜状になったものを鼓膜とよぶ。鼓膜に接して鼓膜器官の感覚細胞がある。鼓膜器官は、キリギリスやコオロギでは前肢の脛節(けいせつ)の付け根、バッタでは第1腹節の両側にあるなど、位置は種により異なる。
[川島誠一郎]
両生類以上の脊椎動物の耳において,中耳の外側に張りつめている薄い膜。外界の音響によってこの膜が振動すると,その振動が膜の内面に付着した耳小骨(鼓室小骨)を介して内耳へ伝わり,聴覚を引きおこす。両生類では鼓膜は体表と同じ面にあるが,爬虫類(耳の退化したヘビ類を除く)以上の動物では外耳が発達し,鼓膜は耳の外口より奥へ退いた位置にあって,機械的に損傷するのが防がれる。進化的にみれば,耳の穴は原始的魚類であるサメ類のもつ呼吸孔(噴水孔)つまり退化した第1鰓裂(さいれつ)と相同のもので,鼓膜はこの鰓裂の外口が開通せずに皮膚が張ったまま残存したものである。耳小骨は両生類・爬虫類・鳥類ではサメの舌顎軟骨(ぜつがくなんこつ)と相同の耳小柱(あぶみ骨とも相同)だけで,これの一端が鼓膜の内面に付着し,他の一端は内耳へつながっている。哺乳類では,爬虫類の方形骨・関節骨とそれぞれ相同のきぬた骨・つち骨があぶみ骨に加わって耳小骨が3個の連鎖をつくり,その最外側にあるつち骨が鼓膜の内面に,最内側のあぶみ骨が内耳へ付着する。
ヒトの鼓膜は外面の皮膚層,内面の粘膜層,それらに挟まれた固有層という3層から成り,さらに固有層は結合組織繊維の内外2層からできている。成人の鼓膜は穴の入口から約3cm奥にあり,直径9mmの円形で中央のへこんだスピーカー形をしている。厚さは約0.1mmであるが繊維層がよく発達し,外界の音に応じて振動する。鼓膜の面積に比べ内耳への入口は小さいので,音圧が増強される。中耳腔の急性の炎症では鼓膜が赤くはれており,鼓膜に切開をいれて排膿させることがある(鼓膜切開術)。中耳腔が陰圧になると鼓膜はへこみ,軽い難聴や閉塞感がおこる。慢性中耳炎では鼓膜に穴(穿孔(せんこう))があり,手術でふさぐ必要がある。鼓膜に病気が限局してあるとき鼓膜炎と呼ぶが,耳からの排膿(耳だれ)がつづき,中耳炎と区別しにくい。なお昆虫の鼓膜器官については〈弦音器官〉の項参照。
執筆者:田隅 本生+星野 知之
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…あぶみ骨筋は強大な音響が耳にくると反射的に収縮する。(3)鼓膜 鼓膜tympanic membraneは成人では外耳道に対して上下斜めに面しているが,小児では水平に近い。中央は内方にへこんで漏斗状をなし,周囲には鼓膜輪があって,鼓室骨の鼓膜溝に付着する。…
…鼓室小骨または聴小骨ともいう。魚類以外の脊椎動物の中耳の鼓室にあって,音の振動を鼓膜から内耳へ伝達する小さい骨。両生類,爬虫類,鳥類には1個,哺乳類には3個ある。…
※「鼓膜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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