デジタル大辞泉
「滲出性中耳炎」の意味・読み・例文・類語
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家庭医学館
「滲出性中耳炎」の解説
しんしゅつせいちゅうじえんちゅうじかたる【滲出性中耳炎(中耳カタル) Otitis Media with Effusion】
[どんな病気か]
耳の中に分泌物(ぶんぴつぶつ)(滲出液(しんしゅつえき))がたまる病気です。
この滲出液には、どろどろとした粘性(ねんせい)(にかわ状)のものと、さらっとした漿液性(しょうえきせい)のものとがあります。
[症状]
耳のつまった感じ(耳閉感(じへいかん))や、ささやき声が聞こえない程度の軽い難聴(なんちょう)がおもなものです。
[原因]
急性化膿性中耳炎(きゅうせいかのうせいちゅうじえん)(「急性化膿性中耳炎」)を抗生物質で治療すると、細菌が早く消失し、鼓膜(こまく)の穿孔(せんこう)も塞(ふさ)がって耳だれが止まります。しかし、中耳内の炎症はまだ残っているため、分泌物が過剰になって中耳内にたまります(コラム「急性化膿性中耳炎治療の考え方の変化」)。
また、急性化膿性中耳炎の後、中耳と鼻腔(びくう)とをつなぐ耳管(じかん)の炎症が治まらないで粘膜(ねんまく)の腫(は)れが残り、耳管を閉鎖(へいさ)します。このため、滲出液が中耳内にたまっておこることもあります。
アデノイドが大きくなって耳管を塞いだり、副鼻腔炎(ふくびくうえん)の鼻汁(びじゅう)が耳管を塞いでしまうためにおこることもあります。
[検査と診断]
鼓膜を通して滲出液が見えるかどうかを調べ、ティンパノメトリーという鼓膜の動きを見る検査を行なって診断します。
4~5歳以上であれば、聴力(ちょうりょく)検査で、難聴の程度を検査します。
[治療]
鼓膜切開(こまくせっかい)、鼓室穿刺(こしつせんし)を行なって、中耳腔(ちゅうじくう)にたまった滲出液を排出させます。
滲出性中耳炎を誘発した副鼻腔や耳管の病気を治療しながら、根気よく経過をみることがたいせつです。
中耳や耳管の炎症が治まるにつれて滲出性中耳炎の約90%は自然治癒(しぜんちゆ)します。
■難治性滲出性中耳炎(なんちせいしんしゅつせいちゅうじえん)
耳鼻咽喉科医(じびいんこうかい)の治療を3か月間受けても治らないものを、ふつう、難治性滲出性中耳炎といいます。
鼓膜(こまく)の位置が正常に近ければ、滲出性中耳炎が発症してからそれほど期間がたっていず、難治性滲出性中耳炎とはいえません。
鼓膜が後ろに引っ張られて陥凹(かんおう)している(へこんでいる)場合は、発症してかなりの期間が経過していて、難治性の可能性があります。
X線検査で耳の乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)の発育程度を調べ(コラム「中耳炎と乳突蜂巣の発育」)、年相応の発育がみられなければ長期間継続している滲出性中耳炎で、難治性といえます。
何回も急性化膿性中耳炎をくり返した滲出性中耳炎も、難治性滲出性中耳炎といえます。
●原因
つぎのようなことがあると、難治性滲出性中耳炎がおこりやすくなります。
①急性化膿性中耳炎がくり返しおこり、耳管の炎症や浮腫(ふしゅ)(むくみ)がおさまらない。
②アデノイドの肥大(ひだい)、先天性の耳管障害(口蓋裂(こうがいれつ)、ダウン症など)がある。
③慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎などのために、鼻汁(びじゅう)(鼻漏(びろう))が耳管咽頭口(じかんいんとうこう)(鼻の奥)に貯留している。
④耳管咽頭口付近に腫瘍(しゅよう)(上咽頭(じょういんとう)がん、鼻咽頭血管線維腫(びいんとうけっかんせんいしゅ)など)がある。
●治療
難治性滲出性中耳炎の治療は、鼓膜(こまく)チューブ留置術(りゅうちじゅつ)が必要になります。
とりあえず難治性らしいという程度であれば、内径1mmの小さいチューブを、鼓膜切開口から中耳腔に向かって挿入し、3~6か月留置します。チューブを何回挿入しても治るようすのみられない場合は、内径の大きなチューブに替えます。
鼓膜が陥凹して中耳とくっついていれば、内径の大きなチューブを1年以上挿入します。
この時点の治療を怠ると、癒着性中耳炎(ゆちゃくせいちゅうじえん)(「癒着性中耳炎」)、真珠腫性(しんじゅしゅせい)中耳炎(「真珠腫性中耳炎」)、鼓室硬化症(こしつこうかしょう)(「鼓室硬化症」)、コレステリン肉芽腫(にくげしゅ)(「コレステリン肉芽腫」)へと移行し、永久的な難聴(なんちょう)が残る危険があります。
原因の項で述べた鼻咽腔(びいんくう)の病気の治療も必要です。
内径の大きなチューブを挿入すると、鼓膜に穿孔(せんこう)(孔(あな))が残ることがありますが、難聴の程度は、このほうが軽く、ひどい中耳炎になる確率も低いのです。鼓膜に穿孔が残ったら、2~3年経過をみて、(10歳をすぎてから)穿孔を閉鎖する治療を行ないます。
●日常生活の注意
鼓膜チューブを挿入している間は、耳に水が入らないように注意します。
学校の授業でプールで泳ぐ程度であれば、耳栓(みみせん)をすれば支障はないようです。あまり頻回に水と接すると、中耳炎のおこる確率が高くなるので、水泳教室に通うなどは勧められません。
耳に滲出液がたまっているときは難聴がありますから、自動車の警笛などが聞こえにくく、交通事故の危険があるので注意が必要です。
しんしゅつせいちゅうじえん【滲出性中耳炎】
鼓膜(こまく)の奥に液体がたまるために難聴になる病気です。
かぜの炎症が鼻から鼓膜の奥の中耳(ちゅうじ)に広がり、粘膜(ねんまく)から分泌(ぶんぴつ)される滲出液が、鼓膜の奥の空気にとって変わるので、鼓膜が音を受けなくなります。
症状は、難聴、耳閉感(じへいかん)(耳がつまった感じ)、耳鳴(みみな)りなどです。
難聴は、かぜの後などに急に始まります。痛みはほとんどありません。
軽い老人性難聴がある人が滲出性中耳炎になると、会話がほとんどわからないほどの難聴になることがあります。
お年寄りになると、粘膜の抵抗力が低下し、粘膜表面の粘液を排泄(はいせつ)する線毛(せんもう)の運動が低下します。このため、青年期には中耳炎にならなかった人が滲出性中耳炎にかかるようになります。
原因は、かぜが多いのですが、飛行機の着陸時の気圧の変動が原因になることもあります。
診断は、鼓膜の診察、純音聴力検査、インピーダンス聴力検査で行ないます。
滲出性中耳炎は、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)の外来治療で治すことができます。治療方法は、抗生物質の内服、鼓膜切開(鼓膜を切開して、鼓膜の奥の炎症性の液体を吸い取ります。鼓膜を切開しても、聴力はほとんど悪化しません)、鼓膜チューブ留置(りゅうち)(鼓膜の奥に空気が送り込まれるように、中空のチューブを鼓膜に置きます)などがあります。
お年寄りの滲出性中耳炎発症の背景には、中耳粘膜の老化がありますから、治療に時間がかかることも少なくありません。
鼓膜切開を長期間反復する方法や、中耳炎はそのままにして、補聴器を使用する方法もあります。
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世界大百科事典(旧版)内の滲出性中耳炎の言及
【アデノイド】より
…また上咽頭には中耳腔に通じる耳管の開口があるので,耳管が圧迫されることにより,中耳腔の気圧調整不能となり,難聴の大きな原因となる。また,これが原因で,子どもに多い滲出性中耳炎をおこす。学童の場合,成績が低下するので影響は大きい。…
【中耳炎】より
…病変の軽重,耳管の機能の程度により聴力改善の望めない場合もあるが,[補聴器]がこの場合うまく利用できる。 子どもや老人に多い中耳炎に,滲出性中耳炎とよぶものがある。軽い難聴と耳閉塞感があるが痛みはまずない。…
【耳】より
…慢性中耳炎では鼓膜に穿孔(せんこう)がみられる。軽度の難聴のほかにとくに症状のないものに滲出(しんしゆつ)性中耳炎がある。また,中耳炎の一種に真珠腫があるが,これは上鼓室,あるいは緊張部の辺縁穿孔より外耳道上皮が中耳に侵入し内部に蓄積し,周囲の骨組織に圧迫壊死(えし),融解を起こすため骨欠損を生ずるもので,内耳炎,顔面神経麻痺,脳腫瘍などの合併症を起こす。…
※「滲出性中耳炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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