内科学 第10版 「発作上室性頻拍」の解説
発作上室性頻拍(上室頻脈性不整脈)
概念
正常QRS波形からなる通常160〜200拍/分の頻拍で,突然発症し,自然停止する場合も突然停止する(図5-6-12).
原因・成因
機序はリエントリーで,先天性に不整脈の基盤が存在するものと考えられる.
分類
発生部位から,洞結節性リエントリー,心房内リエントリー,房室結節リエントリー頻拍および房室回帰頻拍(心室から心房へ伝導する副伝導路を有する)の4つに分類される(図5-6-13).房室結節リエントリーと房室回帰頻拍がほとんどを占める.
疫学
一般集団における頻度は不明である.WPW症候群における頻拍例に匹敵する.
病態生理
房室結節リエントリーでは房室結節に二重経路が存在し,これらと心房とで旋回路を形成する(図5-6-13の3).房室回帰頻拍では心室から心房へ逆伝導するKent束があるため,心房-心室間でリエントリーが生じる(図5-6-13の4).これらはプログラム電気刺激で誘発と停止が可能である(図5-6-14).
臨床症状
突然動悸が発症し,停止も突然生じる(図5-6-12).心拍数が高い例では血圧低下をきたす.血圧低下は一過性で30〜60秒でほぼ回復するが,失神をきたす例がある.
診断
頻拍は正常QRS波形(narrow QRSとよぶ)で規則正しい(図5-6-12,図5-6-14).心拍数は160〜200拍/分である.洞結節リエントリーではP波は洞調律時と同じで,心房性内リエントリーでは洞調律のP波と異なる波形を示す.房室結節リエントリーではPとQRSは重なるか直前または直後にくるため同定しにくい.房室回帰頻拍では,PはQRSの後のSTの初期部分にあるが,同定しにくいことが多い(図5-6-13).
変行伝導を伴う場合は幅広いQRS頻拍を示すため心室頻拍と鑑別を要する.また脚ブロックやMahaim束を合併すると幅広いQRSからなる頻拍を呈する.
経過・予後
予後は良好であるが,発作の都度停止のための受診を必要とすることが多く,QOLは低下する.心臓にはリエントリーをきたす経路があるので,これを処置をしない限り再発する.
治療
停止には迷走神経刺激として,Valsalva手技または頸動脈マッサージを行う.眼球圧迫は網膜剥離の危険があるので行わない.
薬物治療では,房室結節リエントリーはジギタリス,ATP,β遮断薬,Ca拮抗薬により房室結節内の経路(遅伝導路)で停止と再発をはかる.房室回帰頻拍も房室結節を回路の一部とすることから,房室伝導を抑制するこれらの薬物が有効である.逆伝導である副伝導路の抑制にはプロカインアミド,ジソピラミド,などを用いる.
予防には上記の薬剤を用いるが,長期にわたることから,カテーテルアブレーションが推奨される.房室結節リエントリーでは二重経路のうち遅伝導路を,房室回帰頻拍では副伝導路(Kent束)をアブレーションする.成功率は90%以上で頻拍は根治する.[相澤義房]
■文献
Cappato R, Calkins H, et al: Updated worldwide survey on the methods, efficacy, and safety of catheter ablation for human atrial fibrillation. Circ Arrhythm Electrophysiol, 3: 32-38, 2010.
Connolly SJ, Ezekowitz MD, et al: Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med, 361: 1139-1151, 2009.
児玉逸雄,他:不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版),日本循環器学会,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_h.pdf
奥村 謙,他:不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版),日本循環器学会,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報