網膜剥離(読み)もうまくはくり(英語表記)Retinal detachment

六訂版 家庭医学大全科の解説

網膜剥離
もうまくはくり
Retinal detachment
(眼の病気)

どんな病気か

 網膜が網膜色素上皮(もうまくしきそじょうひ)から分離し、網膜の下に水がたまる病気です。おおまかに原性(れっこうげんせい)網膜剥離と非裂孔原性網膜剥離に分けられますが、普通は網膜剥離といえば裂孔原性網膜剥離を指すので、ここでは裂孔原性網膜剥離について解説します。

 裂孔原性網膜剥離は網膜に(あな)があき、そこから網膜の下に水が入って起こる病気です(図43)。毎年1万人に1人くらいの割合で起こると考えられています。剥離した網膜は徐々に機能を失っていくので、放置すれば失明に至る病気です。そのため、以前は恐ろしい病気というイメージもありましたが、最近では手術でほとんど治るようになっています。

原因は何か

 裂孔原性網膜剥離の原因は、網膜に孔があくことですが、裂孔は何の理由もなしにできるわけではなく、しかるべき前状態ないし原因があります。たいていの場合、網膜裂孔が起こりやすい場所を元々もっている人に網膜裂孔は起こり、そして網膜剥離に至ります。前状態のなかで最も多いのは格子状変性(こうしじょうへんせい)と呼ばれるものです。

 網膜裂孔には2つの代表的なでき方があります。最も多いのは後部硝子体剥離(こうぶしょうしたいはくり)(コラム)に伴ってできる馬蹄形(ばていけい)(弁状)裂孔で、中年以降で多くみられます。若年者では、格子状変性内にできる円孔が最も多くみられるタイプです。この両者で網膜剥離の大部分が占められています。

 そのほかにも、若年者ではアトピー性皮膚炎、家族性硝子体(しょうしたいもうまくしょう)、高齢者では強度近視に伴う黄斑円孔(おうはんえんこう)など、それぞれに特徴的な裂孔のでき方があります。男性では眼打撲などの外傷によるものもめずらしくありません。

症状の現れ方

 若年者に多い格子状変性内の円孔によるものは、丈の低い網膜剥離がゆっくりと進行します。このタイプでは網膜剥離が周辺部にとどまっている間は症状がなく、剥離が中心近くに達して視野の欠損に気づいたり、中心に達して視力の低下に気づいたりします。前駆症状はほとんどありません。

 中高年に多い後部硝子体剥離による裂孔では、丈の高い網膜剥離が急速に進行することが多く、しばしば短時間で視野欠損、視力低下が現れます。飛蚊症(ひぶんしょう)(コラム)、光が走るように見える光視症(こうししょう)などの前駆症状がみられることも少なくありません。

検査と診断

 網膜剥離自体は、眼底検査で容易に診断できます。網膜剥離の検査では、原因となった網膜裂孔をさがし出すことがとくに重要です。網膜裂孔は眼底の周辺部に起こりやすいので、周辺部は慎重に検査する必要があります。

 硝子体出血白内障などで眼底が見えないこともありますが、その場合は超音波検査、網膜電図(眼底に光をあてて、網膜の反応を電位変化として記録する)検査で網膜剥離の有無を判断します。

治療の方法

 ほとんどの場合は手術が必要です。方法は、経強膜法(けいきょうまくほう)と硝子体手術の2通りあります。若年者に多い格子状変性の円孔による丈の低い網膜剥離では、ほとんどの場合、経強膜法が行われます。中高年者の丈の高い網膜剥離では、裂孔の大きさ、位置などでどちらを選ぶかを決めます。

 最近では、徐々に硝子体手術の割合が増えてきています。網膜剥離がこじれた状態である増殖硝子体網膜症、黄斑円孔による網膜剥離、巨大裂孔による網膜剥離などでは硝子体手術が主に行われます。軽い網膜剥離では網膜光凝固術(もうまくひかりぎょうこじゅつ)(コラム)で治療することもあります。

病気に気づいたらどうする

 網膜剥離の治療は急を要することが多いので、すみやかに眼科医に診てもらう必要があります。

河野 眞一郎


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館の解説

もうまくはくり【網膜剥離 Retinal Detachment】

[どんな病気か]
 網膜は、内側の神経網膜(神経が集合している膜)と、外側の網膜色素上皮細胞層(もうまくしきそじょうひさいぼうそう)(神経網膜のはたらきを助ける色素を含んだ膜)との2枚の膜が合わさってできています。この内側の神経網膜が、さまざまな理由で外側の網膜色素上皮細胞層からはがれ、硝子体(しょうしたい)の中に浮き上がってしまうのが網膜剥離です。
 もっとも多い原因は、網膜が変性をおこしてもろくなり、そこが自然に破れて孔(あな)があくことです。
[症状]
 初期には、目の前に(か)のようなものが飛んで見える飛蚊症(ひぶんしょう)や、目を閉じていても光がちかちか見える光視症(こうししょう)になることがあります。
 もっとはっきりした自覚症状は視野欠損(しやけっそん)で、見える範囲が一方から欠けて狭くなってきます。よいほうの目を閉じて患眼(かんがん)(網膜剥離をおこした目)だけで見ると、まるで視野の一部を黒いカーテンで隠したかのように、見えない部分が生じます。
 網膜剥離が黄斑部(おうはんぶ)(網膜の中心部で、ものを見るのにもっともたいせつな部分)におよぶと、ものがゆがんで見えたり、急激に視力が低下します。
[治療]
 網膜剥離と診断されたら一刻も早く入院し、手術治療を受ける必要があります。手術は、剥離した網膜の下にたまった水を抜き取り、網膜にあいた孔にレーザー光線をあてたり、凍らせて凝固させるものです。
 孔のあいた位置にはシリコンでできた当てものを縫いつけ、眼球を内側に陥没させます(シリコンは長年、目に縫いつけても害はありません)。
 また、目の中にガスを入れてガスの浮力で網膜を押さえつけたり、硝子体(水晶体(すいしょうたい)と網膜の間を占める寒天状のもので、これが収縮することで網膜がやぶれ、網膜剥離の原因となることがある)を切除する方法もあります。
 網膜に孔があいただけで、網膜剥離をおこしていなければ、レーザー光線で孔のまわりを固めてしまう網膜光凝固(もうまくひかりぎょうこ)だけで十分なこともあります。
●予後
 手術後の経過が順調ならば、目への強い衝撃だけに注意すれば、日常生活はふつうに過ごせます。
 しかし、網膜剥離の再発や、よいほうの目にも同様の症状が出ることもあるため、定期的に目の検査を受けることが必要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

網膜剥離
もうまくはくり

眼底の網膜がはがれて失明する疾患。網膜は目をカメラに例えるとフィルムに相当する働きをしている0.5ミリという薄い透明な膜である。この網膜は胎内で目が発生するときの眼杯の内壁を構成した神経上皮層と、外壁を構成した色素上皮層とが接着してできたものである。ところが、若年または成人に達してから、先天的あるいは遺伝的素因、強度の近視や外傷、加齢による変化など種々な原因で神経上皮層の一部に小さな裂孔(れっこう)ができ、この孔から液化した硝子体(しょうしたい)が二つの層の間隙(かんげき)に進入すると、神経上皮層がはがれてしまう。このような状態を裂孔原性網膜剥離という。網膜剥離には、裂孔がなくても、網膜やその外側の脈絡膜に腫瘍(しゅよう)や炎症がおこったり、また網膜や硝子体に増殖組織ができて網膜を牽引(けんいん)するためにおこることがある。しかし、主要なものは裂孔原性の網膜剥離である。

 網膜剥離がおこると視野が狭くなり、視力が低下し、放置すれば失明状態になるので、できるだけ早く治療する必要がある。裂孔原性網膜剥離の治療は、手術によって剥離した網膜を元に復位させ、裂孔をジアテルミー凝固、冷凍凝固、レーザーなどによる光凝固によって閉鎖することである。最近、手術法の進歩により治療成績は年々向上している。

[箕田健生]

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食の医学館の解説

もうまくはくり【網膜剥離】

網膜は、カメラでいうとフィルムにあたる組織で、視力に深く関係しています。網膜剥離とは、文字どおり網膜がはがれて、浮き上がってしまう病気です。
 原因は、自然に網膜が破れてあながあくケースがもっとも多く、まれにはアレルギー性結膜炎(けつまくえん)や花粉症によるかゆみで、目を強くこすった場合に起こることもあります。
 初期には目の前に蚊(か)が飛んでいるように見える飛蚊症(ひぶんしょう)や、目を閉じても光がチカチカする光視症(こうししょう)が現れたり、視野欠損が起こり、さらに進行すると急激に視力が低下します。
 網膜剥離と診断されたら手術が必要ですが、予後には、ビタミンAを豊富に含んだニンジンカボチャレバーウナギなどの食品を積極的にとるようにしましょう。

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百科事典マイペディアの解説

網膜剥離【もうまくはくり】

網膜がはがれて硝子体内に出るもの。特発性剥離は網膜の一部に生じた裂け目から硝子体が網膜下に侵入するもので,強度の近視に多く,しばしば頭部打撲が誘因となる。続発性剥離は種々の炎症性・腫瘍(しゅよう)性の眼底疾患に続発する。ともに視野欠損訴え眼圧は通常下降する。放置すれば進行し失明に至ることが多い。治療は特発性では初期に手術。続発性では原疾患の治療が第一で,炎症性の場合は,炎症の消退とともに治癒(ちゆ)することが多い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

網膜剥離
もうまくはくり
detachment of the retina

網膜の色素上皮細胞とその内側の視細胞層とが分離剥離した状態。網膜の最外層である網膜色素上皮は脈絡膜側に付着しているので,網膜全体が剥離するわけではない。網膜の一部にが生じ,そこから剥離が起ることが多い (裂孔原性網膜剥離) 。多くは飛蚊症 (ひぶんしょう) が初発症状で,のちに視野欠損および視力障害を訴える。原因は頭部外傷強度近視が多いが,不明のこともよくある。発病後1ヵ月以内に手術すれば,比較的経過がよい。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

精選版 日本国語大辞典の解説

もうまく‐はくり マウマク‥【網膜剥離】

〘名〙 網膜がその下の膜からはがれた状態。初期症状として、飛蚊症や光視症があり、進行すると視野が欠損する。強度の近視に発生することが多く、しばしば頭部打撲が誘因となる。その他に脈絡膜や網膜の疾患や糖尿病によって起こる続発性のものもある。

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