ヨーロッパ原産で,観賞または薬用のため栽培されるゴマノハグサ科の多年草。一名キツネノテブクロ(狐手袋)。夏,茎の先にできる花穂に,大きな袋状の紅紫色で濃い斑点のある花をつける。茎は根ぎわで分枝して株となり,直立して高さ1mほどになる。茎,葉全体が柔らかな毛で覆われる。葉は卵状長楕円形,長さ10~30cm,幅3~8cm,下部は細くなって柄となり,縁ににぶい鋸歯がある。総状花序に多数の花が横向きに開く。萼片は広卵形で大きい。花冠は太い筒形で,下側がややふくらみ,長さ4~5cm。おしべは4本。蒴果(さくか)は卵形で長さ1.5cm。
ジギタリス属Digitalis(英名foxglove)はヨーロッパに分布し,26種ほどが知られる。ジギタリスの名は一般にD.purpureaをさすが,このほかに花が黄色で全体に毛のないキバナジギタリスD.lutea L.,花が黄色で花序に綿毛の多いケジギタリスD.lanata Ehrh.,全体に腺毛のあるタイリンキバナジギタリスD.ambigua Murr.などが観賞用に栽培される。
執筆者:山崎 敬
その葉を乾燥して細切りしたもので,強心薬として用いる。イギリスの医師ウィザリングWilliam Witheringは,ある老婆が20種以上の薬草から成る家伝の秘薬を水腫の治療に用いていることを知り,その有効成分がジギタリスであることをつきとめ,利尿薬として紹介したのが1775年であった。現在では,ジギタリス葉中の有効成分の化学構造も明らかにされており,ジギトキシンdigitoxinやギトキシンgitoxinという強心配糖体が有効成分として含まれていることがわかっている。正しくはないが,強心薬または強心配糖体の総称としてジギタリスの語を用いることがある。鬱血(うつけつ)性心不全の治療に用いるほか,ある種の不整脈の治療にも用いる。毒性が強く,連続投与による蓄積性もあるので,使用には注意を要する。副作用は不整脈などの心臓毒性のほかに,中枢性の催吐作用がある。心室細動を生じて死亡することもある。
執筆者:重信 弘毅
ジギタリスの花のよく目だつ紫斑は,古代ギリシアでは罰の象徴とされ,またアングロ・サクソン人の間では毒性を警告するために妖精が押した指痕と信じられた。属名はラテン語のdigitus(〈指〉の意)に由来し,花の形が指に似ているためといわれる。英名foxgloveは,釣鐘状の花を指にさし,魔除けなどに用いた習俗から生じている。キツネの名が冠せられるのは,古くそのしっぽがやはり魔除けとされたこととの関連らしい。イギリスでは,死者の魂が宿る草や妖精の草とみなされ,これを家や船に持ちこむことを嫌った。美しいが毒を有するので,花言葉は〈不誠実〉〈華麗〉など。
執筆者:荒俣 宏
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ゴマノハグサ科(APG分類:オオバコ科)の耐寒性二年草または多年草。属名はラテン語で指袋を意味し、花冠の形状に由来する。英名fox gloveを和名ではキツネノテブクロという。ヨーロッパ原産で、約25種を含み、草丈0.9~1メートルとなり、葉の表面は縮緬(ちりめん)状のしわのある卵状披針(ひしん)形で、根出葉は大形で長い柄があり、花穂の下につく葉は短柄で小形。茎、葉ともに白い綿毛があるものが多い。6~8月、約6センチメートルの広鐘状の花を斜め下方に向かって開き、総状花序をつくる。花色は白、桃、紅、桃紫色などで、内側に斑点(はんてん)がある。神話にも多く登場し、ジュノーはこの花を摘み取りマースを妊娠したとあり、古代はジギタリスに触ると受胎するといわれた。排水のよい酸性土壌でよく育ち、半日陰地でもよく育つ。4~6月に播種(はしゅ)し、1回移植して、10~11月に定植すると翌年開花する。
[籾山秀之 2021年8月20日]
葉を60℃以下で乾燥したあと、葉柄と主脈を除いて葉身だけを細切したものを薬として使用する。強心配糖体、サポニン等を含むため、心臓の筋肉性機能不全の治療に強心剤として用いるが、十分な治療量と中毒量とが接近しているために、現在では力価を調節した検定品しか使用できない。ケジギタリスD. lanata Ehrh.の葉はジギタリスに比べて奏効が速く、蓄積作用も少ないといわれ、ジギタリスと同様に用いられる。
[長沢元夫 2021年8月20日]
ジギタリスとジギタリス末は第十四改正日本薬局方第二追補で、日本薬局方から削除された。
[編集部 2021年8月20日]
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…たとえば,ゲンノショウコ,ドクダミ等は広く日本の民間で用いられているが,使用法は漢方の場合とまったく異なるので通常,漢方薬には含めず,民間薬として区分する。また,ウワウルシ,ゲンチアナ,ジギタリス,麦角等は西洋医学では古くから用いられてきた生薬であるが,漢方薬ではない。要するに後述するような漢方医学の理論にのっとって用いられる生薬が漢方薬である。…
…心筋に直接作用する強心薬には次のようなものがある。
[強心ステロイド]
ゴマノハグサ科の植物であるジギタリスの葉,キョウチクトウ科の植物ストロファンツスの種子,ユリ科の植物カイソウ(海葱)Urginea maritima Bakerなどの生薬が強心作用を示すことは古くから知られていた。強心薬としてのジギタリス葉はすでに17世紀のロンドン薬局方に記載されていたといわれ,ストロファンッスは1860年のリビングストンのアフリカ探検で紹介された。…
…ヒナノウスツボは山地の林下に生え,全体軟弱で根は肥大しない。
【ゴマノハグサ科Scrophulariaceae】
キンギョソウ,キリ,ジギタリスなど花のきれいな種が多い科で,草本または木本であっても小低木,まれに高木になる双子葉植物合弁花類。多くは独立栄養または半寄生であり,まれに葉緑素を欠き,腐生生活のものがある。…
…例えばアヘンはその1成分であるモルヒネよりも鎮痛効果が大きい。またジギタリスは多くの強心配糖体を含むが,薬効はその複合作用であって,1成分では効果が弱い。ジギタリスはサポニンなども含むので,これらの協力作用によるのかもしれない。…
…
[強心薬]
種々の原因で心臓の機能が低下している場合に,心筋の収縮力を高める目的で用いる。代表的なものは,ゴマノハグサ科の植物ジギタリスの葉,キョウチクトウ科の植物ストロファンツスの種子,ユリ科の植物カイソウ(海葱)などの生薬,およびこれらの有効成分である強心配糖体である。いずれもステロイド骨格を有する配糖体で強心ステロイドとも呼ばれる。…
…
[中毒をおこす有毒植物]
これには心臓,神経系に作用する有毒植物の致死毒性が特に強いものがある。例えば,ジギタリスにはジギトキシンなどのステロイド配糖体が含まれており,心筋の収縮力を強めるとともに利尿作用をあらわし,昔から薬用とされた。しかし用量安全域がせまく,副作用として食欲不振,悪心,嘔吐をさそい,多量に使用すれば心臓停止による死を招く。…
※「ジギタリス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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