内科学 第10版 「皮質基底核変性症」の解説
皮質基底核変性症(錐体外路系の変性疾患)
概念
40歳以降に発病する徐々に進行する孤発性神経変性疾患である.症候は基底核障害による固縮,無動などと,大脳皮質障害による高次認知機能障害による失行失認,ミオクローヌス,振戦などの不随意運動などが出現し,この臨床症候の多様性および多彩性のために,臨床診断名としてはcorticobasal syndrome(CBS)とよばれることが多くなっているので以下はCBSと略すことにする.一方CBDは神経病理学的には確立された概念であるので病理学的に診断されたものはCBDとする.
疫学
通常孤発性に50~70歳代に発病する.米子市での疫学調査では有病率は10万人あたり2.24人であった(1999年).実際の頻度はもっと高いと考えられている.男女差はないとの報告と,女性に多いとの報告がある.
病理
病理学的には前頭頭頂葉に強い非対称性の大脳萎縮で基底核と黒質の変性を示す.組織学的には神経細胞およびグリア細胞内に異常リン酸化タウ(4リピートタウとよばれるアイソフォーム)が蓄積するタウオパチー(tauopathy)の1つである.CBD病理を示す疾患は多彩である(表15-6-8).
臨床症状
典型的なCBD-CBSの臨床像は,一側から始まる,大脳皮質症候(失語,失行,皮質性感覚障害,他人の手徴候,ミオクローヌス),基底核症候(固縮,無動,振戦,ジストニア)である.しかし,病理所見でCBDを示しても表15-6-8に示すようなきわめて多彩な疾患と診断されてきたことがわかってきた.生前のCBDとの診断は26~56%と低い.
検査成績
CT,MRIでは片側半球の萎縮を呈する(図15-6-18).PETでは代謝の低下を示す(図15-6-19). MIBG心筋シンチグラムでは早期,後期のMIBG取り込みは正常である.経時的検査も正常値を示す.
診断
いくつかのCBDの診断基準が示されているが感度,特異性の高い診断基準はない.このために病理診断されていない例では現在ではCBSと記載されている.表15-6-9は2012年におけるCBSの診断基準であり,今後も改訂されていくものと考えられる.
進行・予後
徐々に進行し,平均罹病期間は約8年である.誤嚥性肺炎か尿路感染症で死亡することが多い.
治療
錐体外路症状,不随意運動,ジストニアに対しては対症的治療を行う.確実な効果は期待できない.[山本光利]
■文献
饗庭郁子:Corticobasila syndrome—最近の進歩と課題—.Brain and Nerve, 64: 462-476, 2012.
Mathew R, Bak TH, et al: Diagnostic criteria for corticobasal syndrome: a comparative study. J Neurol Neurosurg Psychiatry, 83: 405-410, 2012.
森松光紀:進行性核上性麻痺と大脳皮質基底核変性症.診断と治療,92: 779-783, 2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報