日本大百科全書(ニッポニカ) 「祝い棒」の意味・わかりやすい解説
祝い棒
いわいぼう
主として小正月(こしょうがつ)の諸行事に使われる呪力(じゅりょく)ある棒。材質はヌルデ、カワヤナギ(楊)、ニワトコなど、柔らかで細工しやすく、木質の白いものが好まれる。大小はさまざまで、削りかけをつけたり、皮をむいて縄を巻き付けて焚(た)き火であぶり、だんだら模様をつけたりする。目鼻をつけて顔を描いたものもあり、男根の形にこしらえたのもある。この棒で人や物をたたく例は、触発呪術というべきもので、内なる霊力を触発して元気づけ、活動を活発にしようとするものである。
小正月に子供たちが新婚の嫁の尻(しり)をたたくのは、妊娠して多産を祝うもので、そのためにこの棒を孕(はら)めん棒、子孕め、コッパラなどという。柿(かき)の木などをたたいて豊作を約束させる成木責(なりきぜ)めの行事にも、祝い棒を使うことがある。予祝行事の鳥追いにも、棒状や杓子(しゃくし)形のものを子供たちが手に手に持ち、打ち鳴らしながら鳥追いをするので、鳥追い棒の名がある。群馬県や長野県で道祖神祭りのとき、棒に顔を描いたものをつくるのも、祝い棒の変化であろう。粥掻(かゆかき)棒といって、祝い棒の先を割って繭玉(まゆだま)を挟み、それで小正月の小豆(あずき)粥をかき回して年占(としうら)をすることもあり、祝い棒を田の水口(みなくち)に立てて豊作を願う行事もある。
[井之口章次]