日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
科学技術・イノベーション基本計画
かがくぎじゅついのべーしょんきほんけいかく
Science,Technology and Innovation Basic Plan
日本の科学技術振興およびイノベーション創出政策の基本方針を示す、政府の五か年計画。科学技術・イノベーション基本法(旧、科学技術基本法、平成7年法律第130号)に基づき、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(議長は内閣総理大臣)が5年ごとに策定する。科学技術の水準向上とイノベーションの創出を促し、日本の経済社会を発展させ、国民福祉を増進する目的がある。科学技術に関する投資目標を明示し、省庁縦割りだった科学技術予算を重要分野に柔軟に配分し、成果が出ないプロジェクトは適宜廃止する機動性をもたせるねらいもある。1996年(平成8)の計画策定以来、日本の科学技術関連予算は年間3兆~6兆円を確保している。ただ引用論文数や特許登録件数からみて日本の研究開発力が低下傾向にあると指摘されているうえ、IT(情報技術)革命を主導するアメリカのようなイノベーション創出には至っていないとの批判がある。このため2021年度(令和3)から根拠法を科学技術・イノベーション基本法に改正し、目的にイノベーション創出を明示したほか、科学技術の進歩に伴う倫理や社会慣習の問題も扱えるよう人文・社会科学を対象に加え、研究者育成を含めた包括的計画に衣替えした。
1995年に議員立法で制定された旧科学技術基本法に基づき、第1期計画(1996~2000年度、投資目標額17兆円)で公募型研究を増やし、第2期計画(2001~2005年度、投資目標額24兆円)では「50年間にノーベル賞受賞者30人程度」を目標に掲げた。第3期計画(2006~2010年度、投資目標額25兆円)で次世代スーパーコンピュータ開発を掲げ、第4期計画(2011~2015年度、投資目標額25兆円)では東日本大震災からの復興やエネルギー問題の解決をめざし、第5期計画(2016~2020年度、投資目標額26兆円)ではIT、人工知能などを活用した便利な社会「ソサエティー5.0」の実現を提唱した。しかし第1期を除き、2期から4期まで投資目標は未達成。第6期計画(2021~2025年度、投資目標額30兆円)では脱炭素社会実現に向けた技術革新を後押しするほか、博士課程大学院生への生活費支援や女性研究者比率の引上げなどの人材育成策を盛り込んだ。
[矢野 武 2021年4月16日]