種社会 (しゅしゃかい)
synusia
specia
生物全体社会を構成する実在的な単位を表す概念。今西錦司の提唱(1949)による。今西は,specific synucia(単一種からなるシヌシア。シヌシアとは同じ生活型をもつ生物の集団の意味)を短縮したスペシアspeciaの語を用いることをも提唱した。スペシアは,一つの種に属する,生活様式を同じくし相互に交配の可能なすべての個体がつくる社会である。今西は,スペシアの構成個体をスペシオンspecionと呼び,スペシアを構成する任意の集団,すなわち単独行動個体,単位集団,地域社会などをオイキアoikia,その構成個体をオイキオンoikionと呼んだ。一つの種社会の空間的なひろがりは,その種の分布域に対応するが,系統的に近似な種社会間にはすみわけが見られる。このように今西の種社会を基盤とする生物社会理論は,C.ダーウィンをはじめとする西ヨーロッパの淘汰理論とは対照的に,共存に重点を置いた社会理論だということができる。近年今西は,生物全体社会に対してホロスペシアholospeciaという用語をあてることを提唱した。
執筆者:伊谷 純一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
種社会
しゅしゃかい
(1) specia 今西錦司が『生物社会の論理』 (1949) のなかで提唱した概念であって,「生物社会学の立場で,生物的自然を構成している,究極的な社会単位を,一応種の社会と考え」るとする。すなわち種を,単に同類の個体の集合とみるのでなく,個体同士が関係をもち合い,その種に固有の生活を営んでいる,生態学的構造をもった存在としてとらえる。すみわけは,近縁の種社会であって生活の場をほぼ同じくするが,ある点で差異をもつものによる補い合い的な分布としてとらえられる。たとえば数種のタニガワカゲロウの幼虫が川の流速に応じてすみわけている場合などが,今西の立論の基礎をなす実例である。 (2) synusia 動物の同種個体群の集りである個体群において,個体間の相互関係によって一つのまとまりが生じているとき,これをその動物においての種の社会 (種社会) と呼ぶことができる。その相互関係の組織が社会構造である。順位,なわばり,群れなどは,社会構造のとらえ方の代表的なものである。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の種社会の言及
【動物社会学】より
…一方,日本では,今西錦司のすみわけの原理(《生物社会の論理》1949)に端を発し,今日の霊長類社会学に至る独自の展開が見られたといってよい。今西は[種社会]speciaを,一つの種のすべてのメンバーを含み,それ自体が主体性をもち,生物全体社会holospeciaを構成する要素であるとしている。生物学的種の社会的側面を究明しようとして結局は行動の生理学的基盤の理解に終始した西ヨーロッパの流れと,今西が設定した社会学の相違はこの点にある。…
※「種社会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」