人類学者。京都に生まれる。1928年(昭和3)京都帝国大学農学部卒業。1940年に理学博士となり、1954年(昭和29)より京大人文科学研究所員、1959年に同所教授となる。1962年より京大理学部教授を併任、1965年に京大退官後、岡山大学教授を経て岐阜大学総長を務めた。
1933年ごろのカゲロウの種間の比較観察による発見から、棲(す)み分けの理論を唱え、種社会の概念を基礎とする生物社会構造の理論をたてた。第二次世界大戦後は、京都大学理学部と人文科学研究所において、ニホンザル、チンパンジーなどの研究を進め、日本の霊長類社会学の礎(いしずえ)を築いた。京都大学理学部自然人類学講座、京大霊長類研究所の創設に寄与し、人類学、霊長類学にとどまらぬ広い分野にわたって多くの後進を育てた。西欧の生存競争を強調する進化論を批判し、種社会の主体性と共存の理論に立脚する独自の進化論を唱えた。
登山家、探検家としても知られ、大興安嶺(こうあんれい)(1942)、モンゴル(1938~1946)、カラコルム(1955)、アフリカ(1958~1964)などへの多くの調査隊を組織し、自ら率先して野外調査を進めた。また、1982年には日本国内の1300山の登山を記録した。著書に、『生物の世界』(1941)、『遊牧論そのほか』(1948)、『生物社会の論理』(1949)、『人間以前の社会』(1951)、『私の進化論』(1970)、『ダーウィン論』(1977)など多数がある。京都大学名誉教授、岐阜大学名誉教授、日本山岳会会長。1972年(昭和47)には文化功労者に選ばれ、1979年に文化勲章を授与される。
[伊谷純一郎 2018年11月19日]
『『今西錦司全集』全10巻(1974、1975/増補版・13巻・別巻1・1993、1994・講談社)』
昭和期の人類学者,動物学者,探検家,登山家 京都大学名誉教授;岐阜大学名誉教授。
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
動物学者,人類学者。京都市生れ。京都大学および岐阜大学名誉教授。早くから登山に親しみ,山岳の自然誌的研究を進める中で,生物社会の空間的構造に着目し,カゲロウの分布の生態学的研究から導いた〈種社会〉の概念を基盤とした,生物社会の認識論ともいうべき〈棲み分けの理論〉を提唱し,これに基づき,淘汰によらない独自の進化学説を提唱した。後に,生物社会の成立の歴史的側面に関心を広げ,都井岬の半野生馬,野生ニホンザルなどの社会の研究から,人類の社会進化の研究分野を開拓し,これらの研究グループを組織するとともに,財団法人日本モンキーセンター,京都大学霊長類研究所の設立に貢献した。第2次世界大戦前は,樺太(からふと),白頭山,蒙古(もうこ),大興安嶺などの探検,戦後はマナスル,カラコルムの登山,アフリカ類人猿調査などを進め,科学者,探検家,登山家としても知られている。1972年文化功労者,79年文化勲章受章。著書《生物の世界》(1941)のほか《今西錦司全集》全10巻(1975)がある。
執筆者:増井 憲一
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…彼は主体的環境をUmweltと呼んで所有の環境基盤Umgebungから区別し,〈環境研究の最初の課題は,ある動物を取り巻く諸特徴から,その動物が知覚している環境の特徴を見つけだして,その動物独自の固有環境を構成することである〉と述べて,主体別環境研究の基礎を示した。今西錦司も〈生物の認識しうる環境のみが,その生物にとっての環境であり,それがまたその生物にとっての世界の内容でもある〉と指摘したが,これはユクスキュルの考え方と軌を一にしている。(2)行動・機能別の環境 主体別環境について,次に問題になるのは主体が知覚し認知している部分(認知環境,知覚環境)と,知覚の有無にかかわらず実際に作用している環境(実質環境)との区別である。…
… もしそうだとすると,われわれが一匹のハチ,つまり一つの個体として見ているミツバチの〈個体〉は何になってしまうのか。今西錦司はかつて,この問題に対して次のように考えた。すなわち,生物の個体と種との関係は単一ではない。…
…動物行動学,生態学,動物社会学において,個体群動態や社会構造などの研究のために動物のある同一種の中の個々を識別する方法。日本における野生ニホンザルの研究に導入されて多くの成果をあげたが,今西錦司が1947‐48年に宮崎県都井岬で行った半野生馬の研究に端を発する。今日,個体識別法は,この種の野外研究には不可欠な方法とされるに至ったが,個体を,性,年齢,順位などによって表すにとどまらず,血縁関係のうえに位置づけ,長期にわたる観察を可能にした点にとくに重要な意義がある。…
…これら進化学の紹介を日本の進化論の第2段階とすれば,第3段階は日本の学者による独自的学説の樹立ということになる。前記の木村資生の中立説はその一つであり,また今西錦司はダーウィン批判の議論を展開し,種形成に関する新理論を提唱した(《ダーウィン論》1977,その他)。【八杉 龍一】。…
…この考えのうえに多くの研究が行われ,すみわけ(食いわけ)の具体例は数多く知られるようになったが,しかし一方でこの考えは,近縁種がすみわけていない場合も数多く知られてきたことなどから,さまざまな批判を受けている。(2)今西錦司のすみわけ理論 今西錦司は,渓流性カゲロウ類の流速と水温の違いに対応するすみわけの現象を出発点として,種社会という新しい概念を構想し,それに基づいて独自な生物論(生物の世界論)を構築した(1941)。これは,すみわけ現象を近縁種個体間の競争という面から見るのではなく,近縁種の種社会が相補的に成立しているという視点をとるものである。…
…それは行動学が個体の行動の生物学的理解に終始し,そこでは社会はあくまでもその環境要因の一つでしかなかったことによる。一方,日本では,今西錦司のすみわけの原理(《生物社会の論理》1949)に端を発し,今日の霊長類社会学に至る独自の展開が見られたといってよい。今西は種社会speciaを,一つの種のすべてのメンバーを含み,それ自体が主体性をもち,生物全体社会holospeciaを構成する要素であるとしている。…
※「今西錦司」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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