翻訳|population
ある場所または地域に住んでいる生物の同種個体の集まりを指すが,研究の目的や性質によってはその中から任意に選んだ一部,または特定な発育段階にあるものだけを取り上げて個体群と呼ぶこともある。例えば,任意に選んだ生息場所の一部に住むある一種の昆虫の全個体,あるいはそれから任意に選び出した一部の個体,または行動や産卵の調査研究などのために取り上げた成虫だけの集まりなどがそうである。
実験室において研究のために飼育増殖される生物種の一群もやはり個体群と呼ばれるが,自然の個体群と明確に区別するため,実験個体群と呼ばれることが多い。遺伝学では集団という語を用いる場合が多く,特に同じ遺伝子給源をもつ複数の集団をメンデル集団またはガモデームgamodemeと呼んでいる。概念的には,それぞれの生物種の地理的分布の広がりにつれて連続または不連続的な生理・生態的特性を示すいくつかの地域個体群や,すでに亜種とされるほどの種分化の進んでいる亜種個体群などを認めることができるし,さらにはそれらを包含した種個体群というものを想定することもできる。水産学では生理・生態的な違いの認められる地域個体群のことを,系群sub-populationと呼ぶことが多い。人間の場合は個体群というより人口という語が使われるのが普通で,この場合には主として個体数を意味する。
一般に個体群は齢構成,性比,個体の空間的分布様式,遺伝的構成などの内部構造をもっているが,種内の個体関係に重点をおいてみる場合には社会と呼んだほうがいい。齢構成についてみれば,ある時期には幼虫しかいないが次の時期には成虫だけになるといった昆虫などでよく見られる世代の重ならない個体群もあれば,多くの哺乳類で見られるようにいつもいろいろな齢期にある個体を含んでいて世代の重なる個体群もある。齢構成や性比は時間とともにたえず変化するのと同時に,個体群全体としてのその時の増殖率にも関係している。個体の空間的分布様式は,その生物が群を作るか作らないかといった生活様式を反映しているばかりではなく,増殖やそれにともなって起こる移動・分散とも密接な関係をもっている。個体群の一部に遺伝的構成の変化が生ずると,条件によってはそれが種分化につながることがある。個体群密度は出生率と死亡率との相互関係によって決まるが,増殖による密度の上昇は一部個体の外部への活発な移動・分散を引き起こしやすい。増殖による密度の増えすぎは,個体どうしの干渉の増大や食物などをはじめとする環境条件の悪化による死亡率の増大,あるいはそれらの影響によって生ずる一雌当りの産卵(仔)数の減少や交尾率の低下などをもたらし,その結果,個体密度は低い方向へと引きもどされる。逆になんらかの事情によって密度が低下した場合には,個体どうしの干渉の低下や食物条件の好転などによる死亡率の低下,あるいはそれらの影響による一雌当りの産卵(仔)数の増加などによって,密度は高い方向へと引き上げられる。こういった現象を密度効果density effectと呼ぶ。多くの生物の個体群には,このように極端な密度の増えすぎや減りすぎを免れるようないろいろな機構が働くようになっていて,その一例としてD.ラックが18年にわたって調査したシジュウカラの繁殖つがい数(密度)と一雌の産む一腹卵数との関係がある。これによると,繁殖つがい数が多い年には一雌当りの一腹卵数が減少し,逆に繁殖つがい数の少ない年では一雌当りの一腹卵数が増加することがよくわかる。
個体群の動態をあつかう個体群生態学は近年いちじるしい発展をみせている学問分野で,害虫防除や生物資源管理などの面において重要な役割を果たしつつある。
執筆者:宮下 和喜
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある地域に生活する同種の個体の集団。個体群を構成する各個体の間には、空間や食物をめぐる競争的関係、交配などの異性間の関係、異性をめぐる同性間の関係、および親子関係などの密接な個体間関係がある。また、他地域に生活する個体との交流の少ない、ある程度隔離された地域集団として扱われることが多い。
個体群に関する重要な側面として個体数または個体群密度の問題があげられる。個体群密度は、安定しているものから局所的で著しく不安定なものまでさまざまあるが、多くのものはある平均密度を中心にして規則的あるいは不規則的に変動する。個体群変動を説明する属性としては、次世代の個体数を規定し個体群の増加力を示す出生率、捕食などによる個体数の減少を示す死亡率、個体群の拡散や他の個体群との交流の程度を示す移出入率、各個体の場所利用や空間配置を示す分布様式、年齢や発育ステージの重なりを示す齢構成、性比、さらに各個体の遺伝的および非遺伝的な質的構成などがあげられる。これらの属性は個体群密度に応じて密度依存的に変化し(密度効果または込み合い効果という)、また生息場所の異質性や同所的に生活する他種個体群との関係などの、個体群を取り巻くさまざまな環境によって密度非依存的にも変化する。これらの要因と属性の複雑な相互作用によって個体群密度の変動パターンが規定されている。
個体群は種の具体的な構成単位であるが、一つの生息場所を占める小地域的なものから、その複数を含む大地域的なものまでいくつかの段階構造が認められ、対象とする問題に応じて任意の段階で扱うことができる。人口問題、水産資源の管理、野生鳥獣の保護、有害生物防除などの理論的基盤となっている。
[遊磨正秀]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一定地域(ある地域,国家,あるいは世界等)に居住する人の数をいう。ある地域の人口集団は,出生,死亡,移動を通じて,その大きさや男女・年齢別構造,そしてまた人口の経済的・社会的構造も絶えず変化していく。出生,死亡,移動の人口現象は,経済,社会,文化,政治の変化の影響を強く受けるとともに,これらの人口現象の結果としての人口構造は社会の将来の発展の基礎条件として影響力をもってくる。しかし,人口変動と社会の発展,存続との間に現在みられるような深い相互関係は,歴史上かつてなかったといってよい。…
…むしろ生物における群集の概念は,その種の違いを人間における職業の違いになぞらえたところから始まったのである。 一つの種に属する個体の集りのことを個体群populationと呼ぶ。ただし,同じ種に属しても地域的に分かれている場合はそれぞれを個体群と呼び,また操作的に扱う場合にもこの語を用いることがある。…
…統計的推論の対象とする事物の集合をいう。たとえば工場における1ロットの製品の重さとか,1クラスの生徒の身長とかが母集団をなす。これらは母集団内の要素数が有限なのでとくに有限母集団という。これに対し,ある工程で今後生産される製品全体を考えるような場合もあり,無限母集団と呼ばれる。母集団からとった少数の標本に基づいて母集団全体についての推測を行うのが統計的推測である。その場合,母集団内の要素に特定の確率分布を想定することが多い。…
… 鑑別的に認識するのは一定の構造をもった個体としての種であるが,生物は個体として生存するのと同時に,種としての実体をもった生活をしている。一定のまとまりをもった同種個体の集団は種個体群と呼ばれるが,種個体群は生物群集の一員として固有の生態的地位を占め,他の地域個体群と種々の生態的関係を結んでいる。また動物の種個体群のあいだでは,さまざまな社会行動によって個体群の維持がはかられている。…
…むしろ生物における群集の概念は,その種の違いを人間における職業の違いになぞらえたところから始まったのである。 一つの種に属する個体の集りのことを個体群populationと呼ぶ。ただし,同じ種に属しても地域的に分かれている場合はそれぞれを個体群と呼び,また操作的に扱う場合にもこの語を用いることがある。…
※「個体群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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