日本大百科全書(ニッポニカ) 「積み木の世界」の意味・わかりやすい解説
積み木の世界
つみきのせかい
初期の人工知能(AI)研究で用いられた単純なドメイン(問題領域)。テーブルの上の複数の積み木を並べ替えたりする単純な作業の立案などを扱う。「積み木の世界」という言い方は、AIがおもちゃ的問題(toy problem)しか解けないと揶揄(やゆ)するのにも使われる。しかしながら、この単純なドメインで、フレーム問題などの、記号処理の本質的な問題が明らかになった。また、STRIPSなどの計画立案研究のドメインとしても有効に使われた。単純ではあるが、より複雑な世界のエッセンスが凝縮していたともいえる。ある意味で、物理学が対象を単純化して理解しようとするのと同等の方法論といえよう。
たとえば、アメリカのAI研究者ウィノグラードTerry Winograd(1946― )は積み木の世界で人間と対話するSHRDLU(シュルドゥルー)というシステムを構築したが、これは初の本格的対話システム(コンピュータが意味を理解したうえで人間と対話するシステム)として評価された。コンピュータ・シミュレーション上でロボットハンドが人間に命令された通りに積み木を動かしたり、質問に答えたりするものであるが、積み木という限定されたドメインでなら、アメリカの哲学者サールJohn Rogers Searle(1932― )のいう「強いAI」が実現できることを示したともいえる。
ただし、積み木の世界はすでにその役割を終えていて、現在では研究に使われることはない。
[中島秀之 2019年8月20日]