突然変異育種(読み)とつぜんへんいいくしゅ(その他表記)mutation breeding

改訂新版 世界大百科事典 「突然変異育種」の意味・わかりやすい解説

突然変異育種 (とつぜんへんいいくしゅ)
mutation breeding

品種改良手法の一つ。農作物家畜に起こる突然変異を利用して新品種をつくりだす育種方法。突然変異は自然に起こることもあるが,人為的に誘起させることも可能で,変異の中には有用なものも低率ではあるが含まれており,これが育種に利用される。栄養繁殖を行う作物では自然突然変異を見つけだすことが育種上有効であることが多い。果樹などは1個体中の一つの芽が突然変異を起こしても,その変異の性質を変えないように栄養繁殖で増殖させることが可能である。このため農家果樹園から枝変りとして見いだされた突然変異が,しばしば新品種の育成に役だってきた。ニホンナシ品種の二十世紀はその有名な例である。

 人為的に突然変異を起こすためには,遺伝子に衝撃的なエネルギーを与える放射線特定の化学物質が突然変異源として用いられる。放射線の場合,電磁波ではX線とγ線を用い,線源としてはコバルト6060Co,セシウム137137CsやX線発生装置を用いることが多い。γ-フィールド(放射線育種場)はその施設として著名である。別に原子炉を用いて粒子線を照射することもある。化学変異源としては,種々の物質が使用されたが,発癌の危険性のあるものもあり,現在ではもっとも安全なアジ化ナトリウムNaN3がよく用いられる。

 人為突然変異では特定の形質だけを変化させ,新しい遺伝子を創出することができる。したがって,交配による育種法で,手持ちの遺伝質が枯渇したような場合に,人為突然変異によって得られるまったく新しい遺伝子を利用し,これを組み込むことが可能である。さらに突然変異源は染色体を切断する働きをもつため,切断された一部をとり入れることにより細胞工学育種に併用することが可能である。突然変異による有用性には短稈(たんかん)(茎が短くなる性質),早生,草型,品質,生化学的性質,耐病虫性,不良環境適応性などがあり,これらの変異体は育種の中間母本としてよく利用されている。日本のイネ品種レイメイは人為的に誘起した短稈変異を利用したものとして有名である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

知恵蔵 「突然変異育種」の解説

突然変異育種

人為的に突然変異を生じさせて品種改良する手法。突然変異は自然界でも低い頻度で生じるが、その発生確率は1遺伝子で1世代当たり、およそ10万〜100万分の1であり、品種改良のために利用するには発生頻度が低すぎる。突然変異の頻度は放射線の線量や照射時間、突然変異誘発剤の濃度や処理時間などに応じて増大する。多数の突然変異体を得て、有用なものを選別していく。作物の品種改良に利用されるだけでなく、ペニシリンストレプトマイシンなどの抗生物質、特定のアミノ酸やたんぱく質などの有用物質を生産する微生物の開発や改良などにも利用されている。

(川口啓明 科学ジャーナリスト / 菊地昌子 科学ジャーナリスト / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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