六訂版 家庭医学大全科 「精神科救急」の解説
精神科救急
(こころの病気)
精神科救急とは、文字どおり精神科領域における救急医療のことです。救急とは大まかにいえば、人間の危機的な状況に対して即時に対応する医療のことですが、世界保健機関(WHO)の健康の定義にある身体・精神・社会の三側面を考えれば、身体的な危機のみならず精神的・社会的な危機に対しても、すぐに医学的な対処ができる社会の仕組みがあることは、私たちの暮らしにとってひとつの安心感につながります。
日本の精神科救急は昭和53年に東京都で始まり、その後大都市を中心に整備が進みました。平成7年には厚生労働省の整備事業によって全国展開の方向性が示され、同9年には専門の学会も設立されました。その後、急患が発生した場合に最初の相談窓口となる精神科救急情報センター、受け入れのための専門医療機関、当番病院の体制、診療報酬の改訂などの整備が行われ、次第に全国各地で実践されるようになっています。
しかしながら精神科救急では専門的な対応が必要なため、その整備は一般の身体救急とは別に行われてきました。精神科救急を担当する医療機関は、一般の救急病院よりも精神科を専門とする単科病院のことが多く、現状は地域によって大きく異なります。
精神科救急の必要性は大きく2つあります。ひとつは時代の変化に伴う「危機介入」の役割です。ストレス社会といわれる現代、精神的・心理的に危機に陥る可能性は高く、時には緊急に医療的な対応を必要とする事態も生じます。
もうひとつの必要性は、精神科医療のあり方の変化に伴う「脱施設化」という現象によるものです。かつて精神医療は長期入院が多く行われましたが、治療法の進化やさまざまな啓蒙活動、在宅支援サービスの発展などによって、患者さんは地域社会で暮らし、社会参加が推進され、地域でのケアが中心となってきました。このような地域で暮らす人々に、時間外の急な受診の必要が生じた際に、一時的に入院や時間外受診などによって対応する医療資源が必要になったのです。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報