救急病院(救急告示病院)とは、消防法により定められた、救急隊によって搬送される傷病者の医療を担当する病院で、以下の四つの基準に該当し、その開設者から都道府県知事に対して救急業務に関し協力する旨の申し出のあったものである(救急病院等を定める厚生労働省令。2007年3月改正)。
(1)救急医療について相当の知識および経験を有する医師が常時診療に従事していること。
(2)X線装置、心電計、輸血および輸液のための設備その他救急医療を行うために必要な施設および設備を有すること。
(3)救急隊による傷病者の搬送に容易な場所に所在し、かつ、傷病者の搬入に適した構造設備を有すること。
(4)救急医療を要する傷病者のための専用病床または当該傷病者のために優先的に使用される病床を有すること。
救急病院および救急診療所の告示状況は、2023年(令和5)4月1日の時点で、全国で4170施設である(病院3958施設、診療所212施設)(令和5年版消防白書)。
救急医療体制は、初期(一次)、二次、三次救急医療機関の機能分担に基づき構築されている。初期救急は、入院を必要としない患者を対象とするものであり、休日夜間急患センターや在宅当番医などが担当している。二次救急は入院治療を必要とする患者を対象とするものであり、病院群輪番制病院や共同利用型病院などが担当している。三次救急は、二次では対応できない複数の診療科領域にわたる重篤な救急患者に対し、高度な医療を総合的に提供するものであり、救命救急センターなどが担当している。
救急医療体制は、小児救急医療体制の再構築、救命救急センターと高度救命救急センターの充実、および医療機関の機能分化にあわせた医療連携体制の再構築の必要性などに伴い、見直しが検討されている。また、2006年(平成18)ごろから、医師不足などの理由で、傷病者を受け入れる医療機関が速やかに決まらない事案(受入医療機関の選定困難事案)が各地で発生している状況を踏まえ、2009年以降、各都道府県において「傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準」が策定され、「実施基準に関する協議会」が設置された。救急搬送の状況は、毎年の実態調査により把握され、基準の改訂および「病院前医療(搬送途中の傷病者に対する医療)におけるメディカルコントロール協議会」の体制強化や二次救急医療機関への助成等の対策が進められている。消防庁では救急車の適時・適切な利用を呼びかけるとともに、救急受診前の電話相談、インターネットで自分で緊急度判定ができるサイト(救急受診ガイド「Q助」)の利用促進などの取り組みが進められている。
[前田幸宏 2024年10月17日]
救急車で搬送される傷病者の医療を担当する病院。診療所の場合は救急診療所という。1964年の厚生省令によって,それまで消防機関によって〈指定〉されていた指定制度(救急指定病院)から,任意の申出にもとづき都道府県知事が告示をする任意申出制度へと改定された。申出にあたっては,その病院が,事故による傷病者に関する医療についての知識・経験を有する医師が常時医療に従事していること,手術室や病室など必要な医療設備を有していること,救急隊の傷病者搬送に便利な場所にあること,などの条件がつけられている。告示件数は,省令が出た当時の719病院,463診療所から,1997年現在,4267病院(一般病院の約50%),933診療所と増加している。しかし,救急病院に対する国の補助がほとんどないため,常時救急患者が受け入れられるような診療体制をとるには,医療機関側に多くの負担が強いられることになる。このため,交通外傷の多発地域を除いては,常時の受入れが困難なところもでてきた。また頭部外傷などに対する医学の進歩によって,病院によっては,救急患者の受入れ能力を欠くところもみられるようになった。1977年以来厚生省は,従来からの救急告示病院等に加え,初期救急医療施設,第2次,第3次医療体制および救急医療情報センターからなる救急医療体制の計画的かつ体系的な整備を推進している。1991年に救急救命士制度を創設し,救急医療の質の向上を図るとともに,災害時における医療体制の確保を図るために,災害において地域への医療支援等を行う拠点病院の整備がすすめられている。従来の救急病院の一部もこれに組み込まれているため,救急病院との調整や統合が検討されている。
→救急医療救命救急センター
執筆者:西 三郎
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