総論(脱髄疾患)

内科学 第10版 「総論(脱髄疾患)」の解説

総論(脱髄疾患)

 髄鞘(myelin sheath,ミエリン)は髄鞘形成細胞の細胞膜が特殊化され,軸索の周囲を何層も取り巻いて形成される.髄鞘形成細胞は中枢神経系ではoligodendroglia(乏突起膠細胞)であり,末梢神経系ではSchwann細胞である.1個のoligodendrogliaが数十本の突起を伸ばし,それぞれの軸索に髄節を形成するのに対して(図15-9-1),1個のSchwann細胞は1本の軸索に1つの髄節形成を行う.髄節と髄節の間をRanvier絞輪とよび,神経インパルスの跳躍伝導にとって重要な役割をする.したがって,髄鞘が障害されると,インパルスの伝導ブロックが起こったり,または伝導速度が遅くなり,神経症状を引き起こすことになる.脱髄疾患とは,この髄鞘が一次的(primary)に障害される疾患をいう.遺伝性の代謝異常により髄鞘形成が完全に行われない髄鞘形成不全疾患(dysmyelinating disease)とは分けて考える.
 脱髄疾患は大きく分けて中枢神経系の脱髄疾患と末梢神経系の脱髄疾患(Guillain-Barré症候群など)があるが,この項目では後者は述べない【⇨15-19】.おもな中枢神経系脱髄疾患を分類して表15-9-1に示す.これらの脱髄疾患のなかでも,患者数の多さ,病因解明の難解さ,治療の重要さや社会的な問題性などの観点から,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)がその代表的疾患である.多発性硬化症に類似はしているが,臨床病理学的に特異な視神経脊髄炎(neuromyelitis optica)やBaló病があり,これらは広く多発性硬化症疾患群という疾患スペクトラムに属するものとの考えがある.しかし,別項で述べるように視神経脊髄炎は疾患特異的な血清アクアポリン4抗体が発見され,アストロサイト(星状細胞)の傷害が主要病変との指摘もあり,今後疾患分類が変わる可能性がある.これらの疾患を病変分布と臨床経過によってわかりやすく模式的に示したのが図15-9-2である.[糸山泰人]
■文献
Compston A, et al eds: McAlpine’s Multiple Sclerosis, 4th ed, Churchill Livingstone Elsevier, Philadelphia, 2006.
糸山泰人:変わりつつある疾患の概念-視神経脊髄型多発性硬化症(OSMS)と視神経炎NMO)-.Annual Review神経,2008: 238-245, 2008.
Misu T, Fujihara K, et al: Loss of aquaporin 4 in lesions of neuromyelitis optica: distinction from multiple sclerosis. Brain, 130: 1224-1234, 2007.
Vinken PJ, Bruyn GW, et al eds: Handbook of Clinical Neurology: Demyelinating Disease 47, Elsevier Science Publishers, Amsterdam, 1985.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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