遺伝性ポリニューロパチー

内科学 第10版の解説

遺伝性ポリニューロパチー(末梢神経疾患)

定義・概念
 原因や病態不明の遺伝性の末梢神経障害を総括して遺伝性ニューロパチーとよぶ.このなかには多発性単神経障害を生じる疾患が若干知られているが,大部分は多発神経炎,すなわちポリニューロパチーである.遺伝性ニューロパチーでは,運動神経のみが障害される遺伝性運動ニューロパチー,運動・感覚神経が障害される遺伝性運動感覚性ニューロパチー(hereditary motor and sensory neuropathy:HMSN,または,Charcot-Marie-Tooth病:CMT病),および感覚・自律神経が障害される遺伝性感覚自律性ニューロパチー(hereditary sensory and autonomic neuropathy:HSAN)に分類される.既知の代謝異常で生じる遺伝性のニューロパチーは代謝性ニューロパチーとして別に一括される.依然として原因不明のものもあるが,最近の遺伝子連鎖解析により責任遺伝子の染色体上での位置(座位)が決定され,それに伴って責任遺伝子そのものが解明されたものも多い.しかし,同一遺伝子の異常でも異常の性状により臨床像が異なることもわかっている.たとえばmyelin protein zero(MPZ/P0)は点変異の部位により,CMT1BまたはCMT2Jなどに分類され,臨床像を中心とした従来の分類に替わって,病因遺伝子の異常に基づく分類に刷新されつつある.なお,遺伝性運動ニューロパチーは運動ニューロン疾患の項で扱うので,ここでは除外する.
臨床病型分類
 DyckらによるHMSNおよびHSAN分類(Shy,2005)を一部改変し,おもなものを以下に概説する.
1)HMSNⅠ型:
腓骨筋萎縮(peroneal muscular atrophy:PMA)の肥厚型,CMT病の神経肥厚型(CMT1)などとよばれていたもので,遺伝性ポリニューロパチーのなかで最も有病率が高い疾患である.常染色体優性遺伝で,小児期に始まる下肢遠位筋の脱力と筋萎縮,凹足(pes cavus)や槌状足指(hammer toe)など足の変形(図15-19-3)を特徴とし,進行すると上肢にも遠位部から脱力,筋萎縮を生じる.感覚障害は軽度で,振動覚低下を主徴とする.四肢腱反射は早期から低下・消失する.このような臨床像に加えて,HMSNⅠ型は電気生理検査において,脱髄性ニューロパチーの特徴を示す.特に正中神経の運動神経伝導速度(motor nerve conduction velocity:MCV)はあらゆる年齢層の患者において38 m/秒未満であり,HMSNⅡ型との鑑別点となる.また,近位部から遠位部にかけて均一な神経伝導速度の低下であり,伝導ブロックを示さないことは慢性炎症性脱髄性ポリニューロパチー (CIDP)との違いとされる.感覚神経伝導速度も遅延し,活動電位が誘発されないこともある.生検腓腹神経では神経束断面積の増加・大径有髄線維の減少・節性脱髄や髄鞘再生・オニオンバルブ形成などがみられ,神経肥厚の原因となる.原因遺伝子による分類ではperipheral myelin protein 22(PMP22)の重複(遺伝子コピー数が3)や点変異によるものをCMT 1A,MPZ/P0の点変異によるものをCMT 1Bとよぶ.early growth response 2 (EGR2)の点変異によるHMSNⅠ型 (CMT 1D)も報告されている.それぞれにde novo変異も認められている.HMSNⅠ型の臨床像に手指振戦などを示す Roussy-Levy症候群はMPZ/P0の点変異によることが判明している.日本人におけるCMT患者の全国調査ではCMT 1Aが58%,CMT 1Bが14%を占めている.
2)HMSNⅡ型:
PMAのneuronal型,CMT病のneu­ronal型(CMT 2)ともよばれる.臨床像はHMSNⅠ型に類似するがHMSNⅠ型に比べて発症年齢が遅く(10歳代にピーク),正中神経MCVが38 m/秒以上であることを特徴とする.末梢神経の生検像では有髄神経線維の脱落は軽く,オニオンバルブ形成はみられない.常染色体優性遺伝のHMSNⅡ型の家系のうちで,異常遺伝子座位が1p36.2にある家系はCMT 2A,3q21にある家系はCMT 2B(足の潰瘍,足指の断節などを伴う),12q23-24にあり横隔膜と声帯の筋力低下を伴う家系はCMT 2C,上肢から始まる筋脱力を特徴とし7p15に連鎖するCMT 2Dなどに分類される.CMT 2Aは最初にkinesin superfamily 1Bβの点変異が,続いてtransmembrane GTPase/mitofusion protein(MFN2)の点変異が報告され,その後の調査ではMFN2点変異がCMT 2Aで最も多い遺伝子変異とされている.neurofilament light chain遺伝子の点変異がHMSNⅡ型のロシア人家系で発見され,CMT 2Eと命名された.またheat shock protein 27(HSP27)遺伝子の点変異によるHMSNⅡ型も発見されている(CMT 2F).臨床像はHMSN Ⅱ型でありながら,MPZ/P0の点変異によるものはCMT 2J(またはCMT 2I)に分類され,前述の日本人におけるCMT患者調査では8%を占めていた.
3)HMSNⅢ型:
Dejerine-Sottas症候群ともよばれる.孤発性または常染色体劣性遺伝とされてきたが,常染色体優性遺伝の家系も報告されている.乳幼児期に発症し,運動発達に異常がみられ,身体機能予後は不良である.正中神経MCVは高度に低下し,髄液蛋白の上昇,末梢神経の肥厚や髄鞘の低形成などのほか,難聴や瞳孔異常などの併存例も知られている.原因遺伝子による分類ではHMSNⅠ型とは別の点変異をもつPMP22,MPZ/P0,EGR2などがあり,本症はHMSNⅠ型の重症例であると考えられる.
4)HMSNⅣ型:
HMSNⅣ型という名称はかつてRefsum病と同義に使っていたが,現在では常染色体劣性遺伝の脱髄性CMT病(CMT 4)を表す.HMSNⅢ型に臨床像は似ているが,HMSNⅢ型よりもMCVの低下が軽度で,髄液蛋白は正常である.基底膜によりonion bulbが形成されているCMT 4A(8q21.1に連鎖)はga­nglioside-induced differentiation associated protein-1(GDAP1)の点変異,focally folded myelin sheathをもち,11q23に連鎖し,myotubularin-related protein-2(MTMR2)の点変異が証明されたCMT 4B1,古典的オニオンバルブで構成され,5q32に連鎖するCMT 4Cなどが含まれる.さらに,ブルガリア北西部のLom地方に住むジプシーにみられ,難聴を伴った常染色体劣性遺伝のHMSNはHMSN-Lomと命名されていたが,8q24に遺伝子座をもつN-myc downstream-related gene 1(NDRG1)が原因遺伝子と同定され,CMT 4Dと命名された.さらにperiaxinの点変異によるもの(CMT 4F)も知られている.
5)X連鎖HMSN型:
伴性遺伝のHMSN(CMTX)をいう.多くはgap junction構成蛋白であるconnexin 32(CX32)の点変異による.日本人のCMT患者の25%を占める.男性患者の臨床表現型はHMSNⅠ型に似ているが,電気生理検査や神経病理に示される脱髄の程度はHMSNⅠ型より軽く,軸索型と区別する意味で中間型と称する.病理像で神経再生が高頻度にみられるのを特徴とする.女性患者は異常遺伝子のヘテロ接合体であり,男性に比べて軽症かほぼ正常である.
6)HNPP:
hereditary neuropathy with liability to pressure palsies(HNPP)は遺伝性圧脆弱性ニューロパチーと訳され,常染色体優性遺伝で反復する局所的運動知覚障害を呈し,圧迫や絞扼などにより症状が出現する.麻痺出現の運動神経には伝導ブロックを認めることが多いが,非圧迫部位においても運動・感覚神経伝導速度の低下を認める.神経病理学的に特異な所見は,末梢神経の有髄神経における髄鞘の局所的肥厚であり,tomacula (ソーセージを意味する)と称される.原因遺伝子はPMP22であり,欠損(遺伝子コピー数が1)やフレームシフト変異により生じる.HNPP患者 におけるPMP22の欠損とCMT 1A患者 でのPMP22の重複とは,性細胞が減数分裂する際に染色体の不等交差により生じる相補的組換え産物であると考えられており,両疾患はいわゆる「遺伝子量効果」の典型例とされている.
7)HSANⅠ型:
常染色体優性遺伝,下肢の遠位部の温痛覚障害,足の無痛性潰瘍を主徴とし,10~20歳代に発症する.皮膚潰瘍は難治性で,軽微な外傷により再発がみられ,二次的な感染により足指の切断を余儀なくされる場合があり,厚いソックスなどで足指を外傷から守ることが必要である.一方,筋力低下はあっても軽度で,下肢の深部腱反射は消失する.上肢は神経症状を欠き,検査上でもほぼ正常を示す.排尿・排便・性機能は保たれ,起立性低血圧もない.感覚神経伝導速度は正常だが,活動電位は低下する.神経病理学的には末梢神経の無髄神経線維が著減し,小径有髄線維も障害を受ける.病因遺伝子座位は9q22で,serine palmitoyltransferase long chain subunit 1(SPTLC1)の点変異で生じる.
8)HSANⅡ型:
常染色体劣性遺伝,乳幼児期から無痛性潰瘍(図15-19-4)や手足の骨折がみられ,すべての感覚要素が高度に鈍麻するか脱失している.深部反射は消失するが,筋力は保たれている.感覚神経活動電位は誘発されない.神経病理学的には末梢有髄神経が高度に脱落するか,ほぼ完全に消失している.WNK1/HSN2遺伝子異常によることが2004年に判明した.
9)巨大軸索ニューロパチー(giant axonal neuropathy):
常染色体劣性遺伝で,幼児期に発症するHMSNだが,小脳失調・精神発達遅滞・視神経萎縮・独特の縮れ毛などを合併する.末梢神経病理において,ニューロフィラメントの蓄積による軸索腫大を認めるのが特徴である.中間径フィラメントにおけるリン酸化の異常は以前より指摘されていたが,MAP 1B light chainに結合するgigaxoninの遺伝子異常によることが最近判明した.[芳川浩男]
■文献
Shy ME, Lupski JR, et al: Hereditary motor and sensory neuropathies: An overview of clinical, genetic, electrophysiologic, and pathologic features. In: Peripheral Neuropathy (Dyck PJ, Thomas PK, et al eds), 4th ed, pp1623-1658, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報