聖母奇跡物語(読み)せいぼきせきものがたり

改訂新版 世界大百科事典 「聖母奇跡物語」の意味・わかりやすい解説

聖母奇跡物語 (せいぼきせきものがたり)

神や諸聖人の介入により,自然界の因果関係を超えた不思議な経緯によって罪の人が悪魔の手から救われるというキリスト教の教化的物語を奇跡物語という。この種の作品には,特に聖母マリアにまつわるものが多く,聖母奇跡物語として一つのジャンルを形成する。奇跡物語は伝記・教化・驚異を主要な要素としており,一般にキリスト教聖人伝の一部門として発生したもので,4世紀末,ヒエロニムスの《パウロ伝》に始まるとされる。初期の史伝的性格に次第に架空の驚異が加わり,6世紀には,トゥールグレゴリウスの《奇跡集》が現れる。聖母に対する特別の尊崇は,エフェソス公会議(431)以後のことであるが,11世紀以来異常な高まりを見せ,他の聖人伝や奇跡物語を圧倒し,他の聖人伝,奇跡物語や異教時代からの民間伝承のテーマをも吸収しながら多くのラテン語による,後にはそれを翻訳・翻案した卑俗語による聖母奇跡物語が,とりわけ聖母ゆかりの聖地と結びついて輩出する。それらのうち,スペインのゴンサーロ・デ・ベルセオの《聖母の奇跡》,フランスのアドガールの《聖母奇跡集》,とりわけゴーティエ・ド・コアンシーGautier de Coincyのそれ(1218-28ころ)が有名である。最後のものはこのジャンルの最高の作品とされ,現存写本の多さが当時の人気をうかがわせる。一般に聖母奇跡物語は文学的価値は高くないが,当時の感情生活や風俗を知る重要な資料となっている。後にリュトブフの劇の典拠となった《テオフィルの奇跡》やA.フランスの小品の主題となる《聖母の軽業師》なども忘れがたい作品である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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